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--安心!?食べ物情報--Food-Review-----------------------------
-------------------------------------710号--2013.06.16------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「ニュースから」「Q&A」「奇跡のリンゴ」

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ブログ毎日?更新中

http://www.kenji.ne.jp/blog/
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---〔話題〕-------------------------------------------------

 遺伝子組み替え作物について、こんな研究のニュースがありまし
た。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 遺伝子組み換え穀物のみを飼料として与えられたブタは、通常の
穀物で育てられたブタに比べ、胃炎を発症する確率が大幅に高いこ
と分かった。豪米の共同研究チームが、専門誌「ジャーナル・オブ
・オーガニック・システムズ」6月号に掲載された論文で発表した。

 遺伝子組み換え穀物は米国や中南米など、世界の多くの国で広く
使われているが、今回の発表は家畜などへの影響に関する議論に一
石を投じるとみられる。

 研究を率いたのは、豪アデレードにある健康環境研究所(IHE
R)の所長で、疫学者・生化学者であるジュディ・カーマン氏。米
獣医師2人らと共同で、米国の養豚場で調査を行った。

 研究チームは、乳離れしたばかりのブタ168匹を対象に、半数
の84匹には遺伝子組み換え大豆およびトウモロコシを与え、残り
84匹には遺伝子操作されていない同等の飼料を与えた。

 両グループを飼料以外は同一の環境下で飼育し、約5カ月後に解
体したところ、深刻な胃炎の発症率は、遺伝子組み換え飼料を与え
られた方が32%、そうでない方は12%だった。また、遺伝子組
み換え飼料で育った雌ブタは、子宮の重さが通常飼料グループに比
べ25%重かったことも分かったとしている。

 体重増や死亡率、血液生化学的な検査などでは、2つのグループ
に差はみられなかったという。

 カーマン氏らは、遺伝子組み換え穀物の影響を調べるには、さら
に長期的な動物飼育研究が必要だとしている。

http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPTYE95B05V20130612
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 これについて、「食品安全情報ブログ」で専門家のコメントが紹
介されています。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

ブタのGM餌投与研究−専門家の反応

■オークランド大学生物統計Thomas Lumley教授

 この研究は昨年の(セラリーニらの)フランスの研究よりましで
ある。群は二つで各群の数はあり、研究プロセスや評価法について
の詳細情報が提供されている。餌がブタにとって適切かどうか、あ
るいはブタの結果からヒトの影響が言えるかについては私はコメン
トできない。研究者らは養豚業者が使用している細かく挽いた飼料
が胃炎を誘発することを記述しており、ブタにはよく見られるが、
他の動物やヒトにはあてはまらない可能性が高い。統計解析は妥当
である。結果はGM作物が有害である根拠としては弱い。多くの可能
性のある影響について調べているため、偶然有意差がつく可能性が
高いためである。この研究だけで政策を変更すべきではないがさら
なる研究で再現されるかどうかをしらべる価値はあるだろう。

■ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジPatrick Wolfe統計学教授

 私は動物の専門家ではないのでデータ解析についてだけコメント
する。

 この研究の最大の問題は、何らかの仮説をたててそれを検証しよ
うとしたものではない、ということである。約150匹のブタについ
て何度も何度も異なる知見を継続的に検定している。従って偶然の
結果が出る可能性が高い。良いデザインの研究とは、特定の影響に
ついての仮説(例えば胃の大きさの変化など)をたて、それをチェ
ックするためだけに一回だけ検定をすることである。他のチームが
そうするだろう。

■ロンドン大学キングズカレッジ栄養科学研究分野長Tom Sanders教授

 小さな偶然の知見であるため、有害影響があるというしっかりし
た根拠にはみえない。成長や死亡率に差はない。餌の内容は異なる
サプリメントが使用されているため同一ではない。胃炎はしばしば
感染により、子宮重量は体重増加速度などで影響される。中程度か
ら重症の胃炎のブタの数は投与群69/73、対照群64/79で差はない。
著者らは重症胃炎の数の違いを強調しているが、これが投与に関連
している可能性は低い。

■ケンブリッジ大学リスクの公衆理解に関するWinton Professor、
David Spiegelhalter教授

 この研究の結論は統計学的に精査されたものではない。著者らは
「重症胃炎」を強調しているが、他の炎症カテゴリーの全てでGM群
の方が良い。このような特定のものだけ選び出して強調することは
科学的に不適切である。適切な方法を使うと胃炎と餌の関連は示さ
れなくなる。さらに検定を他に19回行っており、これは1項目で有
意になると予想される。従って子宮重量の見かけ上の差は偽陽性で
あろう。

http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20130613#p3
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 1回の実験で、いろんなデータを集め、統計的に差が出た部分の
みを強調しているわけです。

 逆にGM作物を与えた方がよい結果になった項目もあり、たくさ
んの項目の中でそういうバラツキが出るのはあり得ることだと指摘
されています。

 インチキ実験ではないだろうが、実験デザインがダメ、というこ
とのようです。

 ジュディ・カーマン氏については、日本にも来たことがある、反
GMの活動家のようですね。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

「オーストラリア州政府の遺伝子組み換えモラトリアム失効への動
き・緊迫情勢について」科学者ジュディ・カーマンさんからお話を
伺いました

 東京での緊急集会で来日されたジュディ・カーマンさんに、関西
に立ち寄っていただく機会を得ました。

 11月22日 (財)大学コンソーシアム京都会館「キャンパスプラ
ザ京都」にて、オーストラリアのジュディ・カーマンさん(健康・
環境研究所長)から、緊迫する遺伝子組み換え関連のオーストラリ
ア情勢にについてお聴きしました。

 同時に、京都学園大学の金川貴博先生と市民セクター政策機構の
清水亮子さんらの対談で、「市民派科学者におかれている現状、新
しい科学的知見、食品安全委員会の審査について」などお話いただ
きました。

http://www.s-osaka.coop/modules/bulletin1/index.php?page=article&storyid=106
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 関係ないですが、「市民派科学者」という自称が本当に使われて
いるのは初めて知りました。

 「生協として、こういう活動をしていると、必ず、科学の壁にぶ
ちあたる歴史があった、市民派は科学的でないと思われているよう
な〜」

 とも書かれているのも面白いと感じました。自覚はあるのですね。

--〔Q&A〕------------------------------------------------

 「安心!?食べ物情報」では、みなさんからの質問を常時受け付け
ています。質問の宛先は

why@
kenji.ne.jp

です。いつでもどうぞ。

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Q.賞味(消費)期限1年間の冷凍食品のメンチカツ。期限が切れ
て2日目の物を道の駅1周年記念イベントで、特産品加工グル−プ
が油で揚げて1個100円で販売するのはどうなんでしょうか。

 期限切れまでは、4個入り360円で販売していた。こんなこと
良いのでしょうか?

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A.あまりやらない方がよいことなんですが、意外なことにこれは
違法ではありません。

 「消費期限」の方はそれを過ぎれば販売してはいけませんが、
「賞味期限」はおいしく食べられる期間をメーカーが設定し、保証
するものです。

 賞味期限切れの商品を売っても、購入者が了解の上なら法律には
違反しないと思います。

 加工食品の原料として使う場合も、賞味期限までであれば原料メ
ーカーが責任を持ちますが、それ以降でも、加工者が問題ないと判
断すれば、使用することは可能です。加工した後は加工者が賞味期
限を設定して責任を持つことになります。

 ということで、法律的には可能ですが、怪しげな行為ではありま
すので、実際にはなるべくやめておいた方がよいです。

 加工者が責任を持つ限りは違法ではないのですが、運用上は客観
的な根拠(安全性を保証するデータとか)が必要です。

 ご質問の場合は賞味期限の2日後ということなので、品質に問題
があることはないと思います。でも、グレーゾーンなのであまりお
勧めはできないですね。

 以前、USJのレストランで、使用した原料が賞味期限切れだっ
たと問題になったことがあります。あれも違法行為ではなかったの
に、大いに叩かれました。

 そういうこともありますので、やめておいた方がよいと申し上げ
ておきます。

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Q.子が一瞬のすきに私の耳垢を食べてしまったのですが、カニバ
リズムのクールー病の心配はしなくていいでしょうか。プリオン病
牛由来の肉骨粉を、0.1グラムでも他の牛が食べたら、プリオン病
が感染するといいますよね。そのデンで、耳垢でも侮れないかなと
心配になりました。

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A.あまりにユニークな発想なので、言葉が出てきません。こうい
うことを私に聞かれても困ります。

 でも、これを受け付けてくれる専門家もいないと思います。いく
ら何でも現実ばなれしすぎです。

 元々の情報源を疑ってみてください。もう少し確からしい情報は
ネット上にいくらでもあると思います。

-〔食べ物情報〕---------------------------------------------
「奇跡のリンゴ」
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 いい歳をして「月刊少年マガジン」を読んでいるのですが、今月
号の裏表紙が映画「奇跡のリンゴ」の広告でした。

 もうこのネタは古いと思っていたのですが、映画になってまた盛
り上がるかもしれないと思い、取り上げることにしました。

 なかなか派手に宣伝していますし、菅野美穂という一流女優を使
っていることからも、ヒットしそうな映画です。

 あらかじめ言っておくと、私はNHKでこのネタを取り上げたと
きから、ずっと批判的な意見を言ってきました。

 この映画に感動した人には悪いですが、今回掲載するのも、徹頭
徹尾「奇跡のリンゴ」を批判するものばかりです。

 まず、以下の記事から。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 昨日、「奇跡のリンゴ」という映画が公開されました。「無農薬
無肥料栽培でのリンゴの栽培に成功した」と自称している、木村秋
則という青森県のリンゴ農家の物語です。

 その影響か、私のブログ記事にコメントが集まっております。1
年以上前の記事だというのに。

 この作品に対して言いたいことは山のようにあります。私に限ら
ず、既に様々な方が疑問を呈しています。詳しくは、以下のサイト
をご覧下さい。

無農薬・無肥料栽培への私見(木村りんご園)
http://www.jomon.ne.jp/~kimura/munouyaku.htm

話題の“無農薬りんご”について(工藤農園)
http://kudofarm.el2.jp/feature/apple/production/munouyaku/001/

スチュワーデスが見える席(日経bp Tech-On)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090212/165571/?ST=print

「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜
(農業技術通信社)
http://agri-biz.jp/item/detail/6776

 この「奇跡のリンゴ」に対する農学的な批判は後日行うとして、
今回はなぜこの「奇跡のリンゴ」という物語が好評を博しているの
かを考えたいと思います。ただし、「奇跡のリンゴ」が「無農薬・
無肥料栽培」ということは全くの嘘であるということだけはこの場
で述べておきます。

http://d.hatena.ne.jp/locust0138/20130609/1370789361
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 ここで紹介されているサイトを読んでいただければ、だいたいの
ところは把握できると思います。

 さて、上で紹介したブログの続にきはこう書かれています。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 いつ頃から始まった傾向なのかはわかりませんが、最近マスメデ
ィアで「感動」という言葉が発せられる頻度が上がったような気が
します。オリンピックやサッカーのワールドカップ、野球のWBCな
ど大きなイベントがある度に「感動した」「感動をありがとう」と
いう表現が盛んに用いられます。また、映画が公開される度に、観
賞後の客にインタビューして「感動しました」「泣きました」と言
わせるCMもいつの間にやら製作されるようになりました。感動を求
める一般市民と、感動を提供するマスメディア。利益が完全に一致
します。マスメディアは常に感動の素材になりそうな物語を探して
います。今回はそれが「奇跡のリンゴ」だったというわけです。

 映画の公式サイトを見ると、「感動の実話」という文字が躍って
います。最初から感動を前面に押し出しています。

 物語の粗筋は以下の通りです。

 木村氏はもともと農薬を使ってリンゴ栽培を行っていたが、妻が
農薬が原因で体調を崩したことから、無農薬のリンゴ栽培を始めた。
しかし無農薬栽培はうまく行かず、収穫が全くないという状況が長
年続いた。失意と極貧の中で自殺まで考えたが、結局無農薬栽培に
成功し、一躍有名になった。現在は無農薬・無肥料栽培を普及させ
るべく、全国を飛び回る日々である。木村氏がこれまで信念を貫き
通せたのは妻をはじめとする家族や周囲の人間の支えがあったから
こそである。

 早い話が、農業の名を借りた「感動の人間ドラマ」です。

 また、全ての発端である書籍について、担当編集者は以下のよう
に語っています。

 「実は農業本として出しているつもりはないんです。この本のテ
ーマは“困難にぶつかった時、人はどう乗り越えていくか”であり、
その普遍性が共感を呼んだのではないでしょうか。またこの本は木
村氏に対する賛否両論を取り上げて、業績をジャーナリスティック
に検証する本でもありません。あくまでも木村氏という対象に寄り
添って、成し遂げた部分にスポットライトを当てたかったんです」

出典:上記の「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」
現象を追う〜

 この説明を邪推に基づき要約すると、以下のようになります。

「事実かどうかなんてどうでもいい。何も考えずに感動しろ」

 私はこれこそがこの「奇跡のリンゴ」という物語の本質なのでは
ないかと思います。事実の検証を軽視するのならば、「実話」では
なく「フィクション」と銘打つべきだろうと思います。フィクショ
ンならば何をやっても構いません。

 映画の公式サイトを見ると関連書籍が紹介されていますが、全て
幻冬舎という単独の出版社から刊行されています。つまり、この
「奇跡のリンゴ」なる物語は、幻冬舎によるメディアミックス戦略
における「商品」です。だからダメだというつもりはありませんが、
この映画を見て感動している方々は、マスメディアの掌で踊らされ
ているだけだということを知っておくべきかと思います。

http://d.hatena.ne.jp/locust0138/20130609/1370789361
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 まず初めにNHKでこのネタをとりあげ、そのときのディレクタ
ーが「奇跡のリンゴ」の本を書き、幻冬舎から出版した、という関
係です。

 おそらくメディアミックスの戦略のウラには、ディレクター氏、
編集者をはじめ、人脈的につながりがあり、映画化にあたっての製
作陣は以下のとおりです。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

製作:東宝、博報堂DYメディアパートナーズ、幻冬舎、KDDI
ジェイアール東日本企画、読売新聞社、Yahoo!、JAPANグループ
製作プロダクション:東宝映画
配給:東宝
助成:文化芸術振興費補助金 文部科学省【選定】

(C)2013「奇跡のリンゴ」製作委員会

http://www.toho.co.jp/lineup/kisekinoringo/
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 ディレクター氏はNHKを代表してではなく、個人的にやってい
るようですね。読売新聞を読んでいると、この映画の宣伝も見せら
れる仕掛けです。

 こんな心配をしている人がいました。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 日本全国の「毒」農薬(←この言葉を使って罵られた経験あり)
を使用して農産物を栽培している皆様、映画「奇跡のリンゴ」上映
が始まりました。

 この映画のヒットの具合によっては、消費者の方と会った時に、
農薬を使用していることをなじられる場合があります。

 消費者の方は、ほとんど現場のことを知りませんから、無農薬で
できるはずなのに危険な農薬を使用するのは、何故ですか。環境に
も人体にも悪影響を与えるのに使い続けるのはおかしい、と単刀直
入に聞いてきます。さて、ここでうろたえているようでは、プロ農
家として失格ですね。

 今回は、「奇跡のリンゴ」について聞かれた場合の対処方法につ
いて、考えたいと思います。

http://ameblo.jp/nougyoukonnsaru/entry-11550008373.html
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 以下は省略しますが、農業関係者ならぜひ読んで対応作を考えて
おくべきでしょう。

 上で紹介されていたサイトの記事に特に付け加えることはないの
で、ぜひお読みください、というところなのですが、一つ感想があ
ります。

 「木村秋則」氏が嘘つきである、という可能性を示唆している人
がいないのです。

 もちろん、私に嘘であるかどうかを判断することはできませんが、
こうした話に接したとき、まず考えるのは本当の話なのか?という
ものであるはずです。

 本にもなったし、映画でもやっているのだから、元の話は本当だ
ろう、けれど……と考えるのはどうもメディアミックスの戦略に引
っかかっているように思います。

 本来なら、この話を持ち出した人たちが、真実であることを証明
しなければならないのですが、「事実かどうかなんてどうでもいい。
何も考えずに感動しろ」と言っているのです。

 私の経験からも、自分から「うちは無農薬でつくっていて…」と
言ってくる農家はまず100%嘘つきでした。行ってみたら倉庫に
農薬が平然と置かれていたりします。

 そもそも本当に無農薬で作っていて、生協に売り込みに来るなん
てあり得ないので、真面目に取り組んでいる人には申し訳ないので
すが、「無農薬なんて嘘ばかり」というのは私の実感です。

 そんなことを思い出していたら、ちょっと身につまされる話があ
りました。

 上で紹介している「農業経営者」という雑誌のサイトになる記事
です。かなり広範囲にまとめた力作ですが、その中に斉藤さんとい
う人が書いた記事があります。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

農業経営者

「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜

PART2 自分

あなたは自分の“農業”を的確に伝えているだろうか?

(斎藤 訓之)

 食酢を散布している無農薬? そもそも自然栽培の定義とは? 木
村氏の周辺には「伝える」ことの難しさが漂う。しかし、あなたは
同じ轍を踏んでいないと言えるだろうか?

 この特集を読んでいるあなたのところにも、これまでに村の外か
らいろいろな人たちが訪ねて来ただろう。親戚や友人、あなたの作
ったコメや野菜を買った人、観光のパンフレットを読んだ人などな
ど。小売業や外食業のバイヤーもやって来る。新聞、雑誌、テレビ
の取材を受けたという人もいるだろう。

 こうした都市生活者は、普段、アスファルトとコンクリートに囲
まれて暮らしている。食事は、家で作って食べることもあるが、外
食したり、完成品や半完成品を買って来て食べることも多い。とく
にランチがそうだが、朝食や夕食でも、コメを研ぎ、だしを取ると
ころから作るという場面は減っている。それでも、子供の頃は母親
の手作りのものを食べて育った人が多いため、そんな食生活に少し
罪悪感のようなものや、味気なさを感じている場合もある。

 そんな彼らが農村にやって来たとき、どのような心理状態になる
のかを想像してみて欲しい。

 誰しも口々に「緑はいいですね!」「気持ちがいいな!」と快適
さを表明するだろう。しかし、実のところ、慣れない場所に来て頭
の中は混乱している。もともと田舎出身という人も多いが、もう何
年も山や原っぱから離れて暮らしている。だから、圃場、樹木、山
の緑に圧倒され、空の広さに驚き、狭く、ときに未舗装の道路に慌
て、草いきれと熟していない堆肥の臭いにむせび、まとわりつく虫
たちに気を取られている。普段とは別世界に来ていることを五感で
めいっぱい感じ取り、興奮状態に陥っているのだ。

 そして、あなたの家の敷地に入った途端、彼らは客となる。その
人がたとえ“セレブ”であっても、客となれば主(あるじ)に頭を
下げ、客でいる間は主に従う。出されたものは嫌いでも手を付ける。
主に了解を取ってトイレの場所を教えてもらうまでは用も足せない。
そして、客は主を立て、話にうなずき、世辞も言うのが作法と心得
ている。

 つまり、農村のあなたを訪ねるお客は、慣れない環境にちょっと
したパニック状態にある上に、あなたに気を遣って行動、思想、感
情に制約がかかった状態にある。

 そんな、なかば“テンパった”状態の客に、あなたはこんな話を
するのではないか。「今の都会の人の食生活は間違っている」「お
いしいものを食べていない」「本物のトマト(もちろん他のすべて
の作物に置き換えていい)を食べたことがないでしょう」。

 そして、あなたは自分の農法が優れたものであり、正統であり、
正義であると宣言し、しつこく説明し、よそとの違いを強調しもす
るだろう。そして、話の信憑性を高めるために、あなたは客を圃場
にいざなう。素人に圃場の善し悪しの区別など付かない。あなたの
圃場がたとえ虫だらけ、草だらけ、畝はのたくったへたくそなもの
でも、客はそこに生命活動を感じて感心するはずだ。

 あるいは手作りの実験の結果を見せることもあるだろう。そのと
き、「数カ月腐らなかったイモ」「腐ったけれども“いい臭い”を
発している野菜の切片」などを示されて、その実験の手順や管理の
適正さを問う客はいないだろう。彼らはあなたのところへ何かいい
ことを見つけに来たのであり、ケチを付けに来たのではないのだか
ら。

 そうして、客がなるほどとうなずき続け、膝を打ち続けて首とて
のひらが痛くなった頃合いで、あなたの家族が「うちで取れたトマ
トですよ」などと、みずみずしい野菜を持ってくる。「まあ、食べ
てみてください。論より証拠。食べれば本当だとわかりますよ」と
あなた。

 たいていの作物は、収穫したてならうまいものではないか。収穫
後1〜2日たって都会のスーパーに並ぶものとは、鮮度も熟度も違
うだろう。しかも、相手はここまでの話を聞き、遠路はるばるやっ
てきたこともあって、口に入れたものはなるべくうまいと感じたい
と思っているものだ。「本当だ! おいしい!」と叫ぶことは、あ
なたの説教に対するお礼にもなるし、農業を理解する頭脳と感性を
誇示して見栄を張るチャンスでもあると、彼らは知っている。

 だから、その場は「おいしい」「本当だ」の応酬になること請け
合いだ。夫婦や仲間数名で来た人たちなら、半信半疑で聞いていた
人でも、連れが「うまい!」と言えば、そういうものかと思い、
「本当だ」と呼応してつぶやきもする。すると、最初に言った本人
も「ほら、やっぱり本当だ」と思い込む。

 一度この体験をしてしまった人は、もうあなたの虜だ。ほかの誰
が水掛け論を浴びせようが、よその農家の作物のほうが優れている
と言う人が現れようが、もはやこの世で最高の農家はあなたであり、
最高の農法はあなたが実践しているもの以外にあり得ないと思うま
でになる。

 そのようにして、実のところうまくもまずくもない作物や際立っ
た工夫も認められない農法が「日本に(世界に)ここにしかないも
の」になって行く瞬間に、私は何度も立ち会っている。

 私はこの現象を「農法ショック」と呼んでいる。

http://agri-biz.jp/item/detail/6776?page=3
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 これが「騙し」のテクニックです。何を隠そうこの私もよく使っ
ていました。

 私の場合はすぐに本当のことを言ったりするので、「信者」を作
るのは下手だったのですが、やろうと思えばできるな、とは思って
いました。

 騙そうと思えば騙せる、という話です。

 恐らく木村氏もこのテクニックを使い、NHKディレクター氏は
これにまんまと引っかかったのでしょう。

 ここまではたぶん不純な動機ではありませんが、その後はもっと
生臭い話になり、儲け話として一定の資本が集まってきたというの
が私の想像です。

 元々、「無農薬」の定義も実態も全く明らかにされておらず、た
だ「感動の物語」だけがあります。木村氏がどのような栽培を行い、
どのような成果を上げたのか、事実のレベルで報告してくれれば、
まだ評価のしようもあるのですが、現在のままでは評価に値しませ
ん。それどころか「無農薬のリンゴ」が事実であるかどうかも疑わ
しいと思います。

--〔後記〕--------------------------------------------------

 ヤマザキパンは「腐らない」と言って批判するのに、「奇跡のリ
ンゴ」は「腐らない」からすばらしいというのはまことに見事なダ
ブルスタンダードです。「奇跡のリンゴ」の支持者で、「ヤマザキ
パンは腐らないからすばらしい」と言う人がいればぜひお目にかか
りたいものです。

 最近どうも「本当のことを言ってはいけない」という風潮がある
のが気になっています。あらかじめ釈明しておきますが、私は木村
氏が嘘つきと断じているわけではありません。しかし事実関係がも
う一つ明らかでない現段階で、そういう可能性も考えてみるのは当
然でしょう?どうして事実かどうか誰も追求しないの?と言ってい
るわけです。

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