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http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/bse_tyosaiinkai.pdfより転載

BSE問題に関する調査検討委員会報告

平成14年4月2日

BSE問題に関する 調査検討委員会


− 目次−


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


はじめに

 1986年11月、英国において確認された牛海綿状脳症(BSE)は、19 90年代英国で猛威をふるい、欧州大陸にも伝播していった。英国から遠く離れ たわが国においては、官民ともにそれを対岸の火事として受け止めていた嫌いが ある。

 2001年8月6日に千葉県のと畜場に搬入された起立不能の乳牛が農林水産 省のサーベイランスの網にかかり、9月10日に、農林水産省はBSEを疑う牛 が確認されたと発表した。衝撃的な報道が全国に伝わった。英国のBSE感染牛 の映像や新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の入院患者の映像が生々しく報道 されたことなどもあって、消費者の牛肉消費に対し、また畜産農家を含めた食肉 業界は一種のパニックともいえる状況が発生した。

 これに対して、農林水産省と厚生労働省では、次々と対策を講じ、10月18 日には、欧州各国より厳しい食肉となる牛の全頭検査を実施し、市場に出回る牛 肉の安全性を確保する体制を整えた。しかし、その後、BSE患畜2頭目、3頭 目が全頭検査により発見され、安全性は担保されてはいたが、消費者に安心を呼 び込むまでには至らず、消費は低迷し続けた。

 わが国はなぜ、BSEの発生を防げなかったのか、また、発生直後の対応のま ずさなどに対する行政不信は、消費者だけでなく、畜産農家とその業界、さらに は焼肉店を含めた外食産業にも拡がり、政府を非難する声は日増しに高まってい った。

 こういった背景の下、2001年11月6日、武部農林水産大臣及び坂口厚生 労働大臣の私的諮問機関として「BSE問題に関する調査検討委員会」が発足し、 われわれはその委員に指名された。本委員会に課せられた検討課題は

  1. BSEに関するこれまでの行政対応上の問題の検証
  2. 今後の畜産・食品衛生行政のあり方について
であった。

 委員の構成は、両省各5名の推薦で10名、獣医学者3、ジャーナリスト3、 消費者団体役員2、その他2で、産業界、農業者、政府関係者を含まない第三者 的な立場の委員である。

 本委員会では、11回、延べ30時間にわたって討議が行われ、その成果がこ の報告書である。

 この委員会の運営上の特徴をここで特記しておかなければならない。それは、 少なくとも二つある。一つは、会議は全て公開とし、傍聴者は別途準備した別室 でモニターテレビを通じて傍聴して頂いた。マスコミ関係者を除いて毎回70人 もの一般傍聴者がいたといわれ、関心の高さを図り知ることができる。また、会 議資料も、全て公開とし、毎回800部の資料が傍聴者、マスコミ関係者、関係 機関などに配布されただけでなく、その資料や発言者の氏名を記入した議事録も 両省のホームページで公表してきた。

 特徴の第二は、報告の作成に際して、すべて委員主導で行われたことで、報告 のスケルトン(委員長メモ)に始まって、委員会で選定された三人の起草委員の起 草文も、事実関係の確認だけは事務局に負うたとしてもすべて起草委員のオリジ ナルなものであった。一般の委員会では、報告案を事務局が準備し、各委員の内 諾を事前に得たものが原案として提出されるのが通例であるが、本検討委員会の 報告については、事前に委員間の意見調整は避け、全て公開の検討委員会の席で 意見を調整し成案にしていくという方法をとったことである。公開を原則とした 本委員会としては、当然の措置ではあるが、恐らく初めての試みとしてこの委員 会の持ち方自体も評価の対象となるものと考えている。

 本報告は1.BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証、2.BSE 問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点、3.今後の食品安全行政のあ り方、という3部構成を採っている。

 第1部で特に問題として取り上げた点は、

  1. 英国におけるBSE発生を踏まえた1986〜95年までの対応
  2. 人への伝達可能性の発表、WHO勧告をふまえた1996〜97年の対応
  3. EUのステータス評価に関する1998〜2001年の対応
  4. わが国でBSEが発生した2001年の対応、ならびに、それらの間における 厚生労働省と農林水産省の連携について
などである。それ ぞれの時期の行政対応を克明に検証した上、委員会としての評価を下している。

第2部は、これまでの事実にもとづいた第T部の検証を受けて、BSE問題に かかわる行政対応の問題点を総括している。そこで取り上げた論点は、

  1. 危機意識の欠如と危機管理体制の欠落
  2. 生産者優先・消費者軽視の行政
  3. 政策決定過程の不透明な行政機構
  4. 農林水産省と厚生労働省の連携不足
  5. 専門家の意見を適切に反映しない行政
  6. 情報公開の不徹底と消費者の理解不足
などである。 ここでは、かなり厳しい評価が随所に下されているが、これらは委員合意のもの であり、行政当局者におかれては、厳しく受け止めて頂きたい点である。

 第3部は、その第1部、第2部で指摘した点の反省の下に、BSE問題に限定 せず広く今後の食品安全行政のあり方について検討し、提言としてまとめたもの である。ここでは、(1)従来の発想を変え、消費者の健康保持を最優先するという基本原則を理念として確立すること、 (2)そのためには、すでにグローバル・スタンダードとなっているリスク分析の手法を導入すべきこと その上で、(3)リスク分析を構成する「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」の あり方について詳しく論じている。そして、最後に、(4)政府は6ヶ月を目途に新 しい“消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律”の 制定と、独立性・一貫性をもったリスク評価を中心とした“新しい行政組織”の 構築に関する成案を得て、必要な措置を講ずるべきであると提言している。

 これは、国民から大きな付託を受けながら、われわれ委員会が長時間をかけて 討議してきた結論でもあり、BSEという試練を乗り越えて、新たな消費者優先 の行政への改革を求める意思伝達でもある。畜産農家をはじめ農業生産者も、ま た、食肉業界をはじめとする食品産業界も、この消費者優先の理念に徹すること によって初めて永続的な経営が可能であることを考えれば政策担当者としては ここでの提唱がすそ野の広い改革を志向するものと理解してほしいものと思う。

 最後に、本委員会の運営に際しては、農林水産省ならびに厚生労働省から数多 くの重要な資料の提出を頂いたこと、ならびに、委員会事務局が休日を返上して 委員会運営や報告書作成事務に協力して頂いたことに感謝の意を表したい。それ らに支えられてはじめて、この新しい委員主導の検討委員会が最終報告まで漕ぎ 着けたものと思っている。

BSE問題に関する調査検討委員会

委員長橋正郎


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証


1 英国におけるBSE発生を踏まえた対応(1986〜1995年)

 英国でBSEの発生が1986年に確認され1988年に英国政府からOI E総会で新疾病として、その発生が報告された。疫学的調査の結果、餌として の肉骨粉による経口感染で広がっていることが推測されたことから、英国政府 は1988年、反すう動物への肉骨粉の使用を禁止した。

 そこで余った肉骨粉はEU諸国に輸出されたが、1989年にオランダ、9 0年にフランス、スイス、ノルウェー、デンマーク、フィンランドが肉骨粉の 反すう動物への使用を自主的に禁止したことで、90年初めからEUへの輸出 は激減し代わってEU 以外の国への輸出が急増し1995年まで続いた。

 英国農漁食料省獣医局長は1990年2月14日付けの書簡で、EU以外の 肉骨粉輸入国の獣医担当者あてに、英国におけるBSEの現状と反すう動物へ の肉骨粉使用禁止を行ったという情報提供を行った。この書簡に述べられてい る内容はすべて衆知のもので、しかも、私的文書と述べられており、送られた 真意は不明である。

 この書簡はわが国にも、農林水産省衛生課長あてに届いていたが、どのよう な対応が行われたかについては、明確な説明がなかった。

 1990年9月28〜29日にはOIEでBSE専門家会議が開かれ、その 報告が農林水産省衛生課長に送られてきた。本報告書の中にBSE非発生国に おけるBSE 防止の項目がある。そこでは「反すう動物の飼料となる反すう 動物由来たんぱく質の輸入に関する政策及び条件の見直しを行うべき」と留意 すべき事項として記載されている。

 この点について、農林水産省は、それ以前の6月に専門家を英国に派遣して 調査を行い、7月に輸入規制の強化(生きた牛の輸入停止、肉骨粉の加熱処理 の義務づけ等)を行っていたため、すでに見直しを行ったと判断している。 一方、1989〜1992年当時にわが国で発表された専門家の主要論文が 提出され、BSEについての楽観的見方が述べられていると紹介されたが、こ れらは主に1989年までの情報にもとづいた論文である。英国では1989 年はニワトリのサルモネラ中毒騒ぎで一時BSEへの関心が薄れていた。19 90年にBSE発生数の急増、ネコ海綿状脳症の出現でBSEに対する認識が 一転したものであり、OIE会議はそのような背景のもとに開かれたものであ る。その点が正しく認識されていたかどうか疑問である。

 1991年11月にはWHOの「動物とヒトの海綿状脳症に関する公衆衛生 問題」に関する専門家会議が開かれ、報告が発表された。その中で、推定され るヒトへの危険の予防策についての勧告がある。この時点でBSEのヒトへの 理論的危険性が国際的に取り上げられたとみなせる。英国政府は1996年ま でにBSEがヒトに感染する可能性はないとしてWHO専門家会議の見解とや や異なる対応をしていた。

 この報告に対して、当時の食品衛生調査会乳肉水産食品部会長は、部会で検 討した記憶はなく、厚生省乳肉衛生課の記録も見つからなかった。入手の有無 も確認できなかった。この報告に対して具体的な対応は取らなかったもようで ある。

 これは、食品対策については、高発生国における対策の記述にとどまってい たためと考えられる。

 英国では1988年に肉骨粉の反すう動物への使用禁止ののち、1989年 11月に脳、脊髄などの特定臓器の食用禁止措置を行った。ついで1990年 9月に特定臓器を動物の飼料に使用することも禁止した。

 1990年前後はヒトの食用から除外された脳、脊髄が動物の飼料に加えら れていたわけで、しかもBSEの発生が急増していた時期にもあたる。したが って、この時期の肉骨粉はとくにBSE病原体による汚染が高いレベルで存在 していたものとみなせる。

 BSE侵入防止にはもっとも重要な時期であった。EUとしての肉骨粉使用 禁止措置は加盟国の合意がすぐには得られず、これが加盟国全体で実施された のは1994年であった。調査により、日本は英国から肉骨粉の輸入はしてい なかったことが判明したが、前述のように、自主的に禁止措置を取った国もい くつかあった。

 EU以外の先進国を見ると、米国では1990年にと畜場段階でのアクティ ブ・サーベイランスを開始し、1994年には免疫組織化学検査を導入した。 また、1991年1月には米国農務省がBSEリスクの定性的及び定量的評価 について詳細な報告書を発表している。オーストラリアでは1990年にと畜 場段階での脳の検査を含むサーベイランスを開始した。

 わが国で実施されたのは発生国である英国での現地調査と輸入規制の強化で あった。

 毎年、開かれるOIE総会には農林水産省衛生課長がわが国代表として出席 しており、そこではBSEをめぐるこれらの国際的動きも報告されていたはず である。1992年には国際動物衛生規約にBSEの章が設けられた。このよ うな国際的情勢の変化に対して、農林水産省は(1)BSE発生国からの生きた牛 の輸入停止、(2)BSE発生国から輸入する肉骨粉に対する英国農漁食料省獣医 局(当時)基準に沿った加熱処理条件の義務づけ、(3)BSE発生国から輸入す る牛肉からの危険部位の除去などの措置を行った。しかし、加熱処理条件の実 態についての調査はとくに行っていなかったと思われる。OIE報告に従って いるが、現地調査等積極的な対応がとられる必要があった。また、わが国への BSE病原体の侵入、さらに国内でのBSE病原体の増幅の可能性は否定でき ない。

2 BSEの人への伝達の可能性に関する英国政府諮問機関の発表、EU委員会 の決定及びWHO専門家会議の勧告を踏まえた対応(1996〜1997年)

(1)1996年4月における、肉骨粉等の牛への給与に関する農林水産省の行 政指導の評価

 変異型CJD患者の確認の発表を受けて、1996年4月2〜3日にWHO 専門家会議が開かれた。これにはFAOとOIEも参加した。4月3日に会議 のプレスリリースが発表され、最終報告書は4月29日付けの公電で送付され ているが、厚生省における受取日は不明である。この報告書は5月7日、厚生 省から農林水産省へファクスで送付された。なお、最終報告書はWHOからも 5月9日付けの文書で直接送付されているが、この文書の厚生省における受取 日も不明である。

 最終報告書の厚生省から農林水産省への送付が遅れた理由は今となっては理 解できない。両省の担当部局間の連絡体制が不備であったことは否めないが、 連休の時期に重なっていたことも関係していたのかもしれない。

 1996年4月8日に農林水産省で「海綿状脳症に関する検討会」が開催さ れた。この検討会での発言要旨には「国内の反すう動物の内臓等については、 国内の反すう動物の飼料として利用されることがないよう指導することが重要 である」と述べられている。なお、会議に出席していた農林水産省担当者の備 忘録的なメモの中には「動物性飼料の禁止令」との発言が記載されている。

 この検討会の意見を受けて、4月16日に農林水産省は肉骨粉の使用禁止に ついて行政指導を行った。一方、この措置についての法制化の審議は農業資材 審議会飼料部会で行われた。4月12日の本部会の議事終了時、流通飼料課長 より、肉骨粉の使用禁止について審議を依頼する発言があり、これにもとづい て具体的審議が4月24日に同部会安全性分科会家畜飼料検討委員会で行われ た。ここで、2名の委員からは禁止の意見が出されたが、WHO肉骨粉使用禁 止勧告は(案)の段階であって詳細が不明であり、今後プレスリリースの内容 の変更も予想されるため、勧告内容が決定された時点であらためて再審議する こととされた。しかし、5月7日に最終報告書が厚生省から送られた後、何ら の対応もとられなかった。当時、米国やオーストラリアが自主的禁止措置をと ったことも参考になったらしいが、後述するように両国が法的禁止措置を取っ た後も、この問題は取り上げられなかった。結局、法的規制について農業資材 審議会飼料分科会に諮問されたのは2001年3月になってからであり、これ は行政対応上に問題があったと認識せざるを得ない。

 なお、家畜飼料検討委員会の委員構成を見ると、家畜微生物学の専門家が2 名含まれているが、プリオン病の専門家ではない。BSEに関する専門家を参 考人として呼び、意見を求めるべきであった。後に、EUステータス評価案に 対する農林水産省回答では、指導は「実質的禁止」と説明されているが、指導 措置が徹底していなかったことは、2001年の千葉県でのBSE発生後の調 査で明らかになったとおりである。

 1996年5月には厚生省からの専門家調査チームが英国に派遣され、厚生 省と農林水産省の技官が同行した。その報告書で、英国における豚や鶏用の肉 骨粉による牛の餌への交差汚染、また汚染検出のためのエライザ法の開発が述 べられている。さらに、1995年11月より半年毎に英国農漁食料省からB SE が農林水産省に送られてきているはずであり、また現在でProgress Report は英国当局のホームページにも掲載されている。これには豚や鶏用餌による交 差汚染と思われるBSE例の増加が毎回掲載されている。これらの報告がどの ように認識されていたかも不明である。

 一方、諸外国の状況を見ると、EUでは1994年にすでに肉骨粉の使用禁 止を実施していた。米国では1996年3月に畜産業界などが自主的に肉骨粉 の使用を禁止し、翌1997年には法的禁止を実施した。オーストラリアでは 1996年5月に畜産業界が自主的に肉骨粉の使用を禁止し、翌1997年1 0月には法的禁止を実施した。

 米国やオーストラリアの対応には国全体としての畜産の重要性を理解した上 での危機意識が伺われる。

 農林水産省は、国際的動向を把握する機会はあるにもかかわらず、適切な対 応をすることを怠ったといえる。その背景には、英国からの肉骨粉等の輸入を 禁止したこと、牛用飼料への肉骨粉の使用はほとんどなかったこと、国内にB SEがみられなかったことから行政指導で実効が確保されると考えていたこと に加え、97年の家畜伝染病予防法改正時の衆・参農水委の「今後とも指導す ること」との附帯決議が全会一致でなされた経緯もあり、法的規制を行わなか ったものと考えられる。

 1996年にはこの法律にBSEが取りいれられた。その際に伝達性海綿状 脳症という学術名を、家畜伝染病予防法の名称にそぐわないとして、伝染性海 綿状脳症に変えた。このことがBSE、さらにCJDも伝染病と誤解を招く点 は考慮されなかった。また、家畜伝染病予防法の目的は「家畜の伝染性疾病の 発生を予防し、及びまん延を防止することにより、畜産の振興を図ること」と されていて、人への健康被害は述べられていないが、この法律にBSEをとり いれたのは、家畜だけではなく人への健康被害も重視したものであり、WHO の勧告に沿った対応である。

(2) 以上の時期における、厚生省の関与についての評価

 厚生省は1996年4月11日、食品衛生調査会を開催し、WHO専門家会 議報告にもとづき、食品衛生上の対策の検討を行った。その際、委員から伝達 性海綿状脳症サーベイランスの実施を要請すべきとの発言があった。そこで、 翌12日付けで、厚生省生活衛生局長から農林水産省畜産局長に対し、肉骨粉 給与の禁止を含むWHO専門家会議の勧告について、適切な対応がなされるよ う要請するとともに、関係資料を提供した。農林水産省はこのWHOの勧告に 沿って前述のように一連の措置を取っており、そのうち、肉骨粉に関しては使 用中止の行政指導を行った。

 BSE問題がヒトの健康問題として浮上してきた以上、BSE拡散防止の観 点から、農林水産省に対して、より明確に意見を述べるべきであった。縦割り 行政で相手に干渉しないという悪い側面が反映したといえる。

 WHO専門家委員会には、農林水産省関連のFAO、OIEからの参加があ ったように、BSE問題では厚生省、農林水産省両方の協力体制の必要性は国 際的にも明らかであった。

3 EUのBSEステータス評価に関する対応(1998〜2001年)

(1)EUのBSEステータス評価に関する農林水産省の対応とその評価

 EU科学運営委員会は1998年に加盟国及びEUに輸出関心のある第三国 についての、BSE発生リスクを評価する作業を開始した。わが国も輸出国と して評価を受けることとなった。

 わが国から提出された資料にもとづいて評価が行われ、その報告書案が20 00年11月に送られてきた。評価は海外からのBSE病原体侵入の可能性、 国内でのBSE病原体増幅の可能性の両側面が主体となって行われた。日本に ついては、輸入肉骨粉による侵入の可能性のあること、とくに1990年の英 国からの輸入肉骨粉についてはその侵入に高度の可能性のあること、また、日 本におけるBSE防止システムがきわめて不安定であることから国内でのBS E病原体増幅の可能性があることが指摘され「国産牛がBSEに感染してい、 る可能性が高いが、確認されていない」カテゴリー3と結論されていた。

 これに対して、農林水産省はカテゴリー2または1に相当するはずとして、 担当者をEUに派遣して協議を行った。当該協議には、農林水産省の衛生課担 当官と流通飼料課担当官農林水産省から出向しているEU代表部アタッシェ 及び厚生労働省から出向しているEU代表部アタッシェが参加している。

 日本側の主張は、EUが牛、肉骨粉等の輸入実績など評価の前提として用い た統計データの検証が不十分であるとして、2000年12月に科学運営委員 会に追加データを提出、その後も協議の中で要請に応じて追加データを提出し た。協議は2001年1月から4月まで農林水産省担当者が派遣されて行われ た。

 ここでは、英国からの肉骨粉の輸入量、行政指導の効果などについてのデー タの食い違い、見解の相違などが議論され、2001年1月に第2次草案、4 月に第3次草案が送られてきた。しかし、結論はカテゴリー3のままであっ た。

 一方、OIEでは2000年に国際動物衛生規約にBSEステータスに関す る章を設けていた。この基準では、BSE発生国と未発生国では違うカテゴリ ーに位置づけられていること、日本ではOIE基準に沿った厳格な防疫施策が 行われていることから、OIE基準では暫定的清浄国になると主張したが、E U側に受け入れられず、農林水産省は評価の中断を要請した。

 これらの経緯は、EUの暫定評価案についてEUが「Confidential」として いたため非公開となったもので、調査検討委員会には、EUの了解を得て公表 されたものである。

 EUの評価手法は、客観的で透明性のあるものにするため、2年間、多くの 専門家がかかわって作成されたものであってすぐれた内容のものとみなせる。

 一方OIEは清浄性に関する基準を設けているが評価手法は定めていない。

 日本がOIE基準で自らの評価を行うには、まず手法を開発しなければならな い。そのような問題があるのに、前述のような理由でEUの評価中断を要請し た論拠は明らかでないが、BSE発生リスクがあるという結論が風評被害を引 き起こすことを恐れたためではないかと推測される。

 EUの報告書案では、日本がステータスを向上させるため肉骨粉の給餌禁止 (農林水産省管轄)、特定危険部位の排除(厚生労働省管轄)、及び迅速BS E検査などによるアクティブ・サーベイランス(農林水産省及び厚生労働省管 轄)の実施などが勧告されている。これらの勧告は率直に受け入れるべき内容 であり、これらの勧告のうち、農林水産省では迅速BSE検査によるアクティ ブ・サーベイランスが2001年4月より、厚生労働省ではウェスタン・ブロ ットによるアクティブ・サーベイランスが同年5月より実施されたが、肉骨粉 の給餌禁止(農林水産省管轄)及び特定危険部位の排除(厚生労働省管轄)は 千葉県でのBSE発生後に実施された。

 もしも、EU報告書案の内容が国民にあらかじめ知らされ、これらの対策が あらかじめ取られていれば、当面の風評被害は起きても、今回の発生時に起き た大きな社会混乱は防げた可能性が高いとみなせる。

(2)EUのステータス評価に関する厚生労働省の関与についての評価

 EUのステータス評価に際して、厚生労働省は農林水産省からの依頼に応じ て、と畜検査に関する法規制の概要やと畜頭数といった基礎的情報の提供を行 った。その後、農林水産省からの経緯の説明、外務省経由の公電による情報提 供を受けていた。

 ステータス評価の取り下げの際には、農林水産審議官の6月15日付けの書 簡(第3回委員会提出資料)をEU側に6月20日に提出することについて外 務省から厚生労働省に対し公電案の協議が6月20日に行われた。しかし、書 簡が農林水産審議官名であったこと、肉骨粉に係わる評価が主な論点であった こと、短時間の協議であったことから、厚生労働省は意見は出していない。

 腸管出血性大腸菌感染症への対応などから1997年には、食品行政O157 について農林水産省と厚生労働省の緊密な連携確保が行政改革会議において指 摘されていた。これが実際に機能すれば、ステータス評価についても、厚生労 働省からの意見提示があってしかるべきものと考えられるが、以上のような状 況を踏まえるとやむを得なかったのではないかと考えられる。

4 変異型CJD感染防止のためにとられた一連の対策の評価 (1996〜2001年)

(1)1996年の変異型CJD確認の際の厚生省の対応と評価

 1996年4月2,3日のWHO専門家会議の報告を受けて厚生省は「クロ イツフェルト・ヤコブ病に関する緊急調査研究班」を同年度に設置した。これ は変異型CJD患者のサーベイランスを目的としたものである。

 この班の設置の背景には1976年に設置された「スローウイルス感染と難 病発症機序に関する研究班」(これは1979年に「遅発性ウイルス感染調査」 研究班となって現在まで続いている)の蓄積がある。この研究体制は現在 「遅発性ウイルス感染調査班サーベイランス委員会」に引き継がれて、継続調 査を行っている。

 医薬品・医療用具等については1996年4月17日に英国産原料の禁止が 実施された。

 食品については同年4月26日にと畜場での臨床検査にBSEが追加され た。

 これらの一連の措置はWHO専門家会議報告書の勧告に沿ったものとみなせ る。

(2) 厚生労働省における血液及び臓器に対する安全対策

 1999年英国の変異型CJD患者で発病前8ヶ月の潜伏期中の虫垂に異常 プリオンタンパク質が検出されたことがきっかけで、血液の理論的危険性が問 題になった。これを受けて米国FDAでは、同年8月に1980年から96年 の間に英国に6ヶ月以上滞在していた者の献血を禁止した。厚生省も同様の措 置を2000年1月に実施した。

 その後、ヨーロッパでのBSE急増を受けて、2001年3月には献血禁止 対象者を、英国のほかにフランス、アイルランド、ポルトガル、ドイツ、スペ イン及びスイスに1980年から現在まで6ヵ月以上滞在していた者に拡大 し、さらに同年11月には対象国にベルギー、オランダ及びイタリアを追加し た。

 さらに臓器提供にも献血に準じた規制が2001年2月には英国に対して 同年3月には英国を含め7カ国に対して、同年12月にはさらにその他3カ国 に対して実施された。

 これらは科学的には未知の理論的危険性に対する予防措置として評価でき る。

(3) 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療用具に対する安全対策

 ヨーロッパでのBSEの広がりに対応して、厚生省は、米国農務省の連邦規 則での発生国、発生リスクの高い国を原産国とする牛等由来原料の使用禁止、 上記の国に限らずBSEリスクの高い牛等の部位の使用禁止を2000年12 月に実施した。

 実施当時は日本でのBSE発生前であり、しかもEUや米国よりも厳しい措 置であったため、BSEの医薬品などを介してヒトへの感染が現実には起きて いない段階でコストを度外視した厳しいものとの意見も出された。しかし、理 論的リスクに対する予防原則にしたがった措置として評価できる。

5 英国以外のE U 諸国でのBSE発生の急増以降、とくに2001年わが国に おけるBSE発生時の対応(2000年〜)

(1) B S E サーベイランスによる患畜の発見までの両省の対応の評価

・農林水産省と厚生労働省のサーベイランス体制

 農林水産省は、2000年12月に牛海綿状脳症(BSE)に関する技術 検討会(以下、BSE検討会という)を設置し、1996年に通達した反。 すう動物への肉骨粉給与制限について改めて周知徹底を指導した。2000 年12月には、EU諸国などからのすべての牛肉製品、肉骨粉等の輸入停止 を決定し、2001年1月1日から実施した。

 2001年4月からは、24ヶ月令以上のBSEが否定できない牛および その他神経症状を示す牛を対象としてアクティブ・サーベイランスを開始し た。これはまず、プリオニクス社から試験品として提供されたキットによる 迅速BSE検査と陽性サンプルについての確認検査(動物衛生研究所) と都道府県の家畜保健衛生所における病理検査により行われることになっ た。内容的にはEUステータス評価案で勧告されていたものと同じである。

 ただし、サーベイランスはOIEの基準にしたがって、年間300頭の牛 について検査を行って、「わが国が清浄であることを国内外に明らかにし いたずらに風評被害を生じないよう」にすることであった。

 4月にサーベイランスを開始したが、集まったサンプル数がきわめて少な かったために、300頭の目標達成は困難と考えられた。そこで、神経症状 を拡大解釈して起立不能なども含めることとし、さらに厚生労働省にと畜場 サンプルの提供を依頼した。なお、このサーベイランスにより我が国初のB SE感染牛が発見された。

 厚生労働省は、2000年後半におけるヨーロッパでのBSE発生国の拡 大、1996年以前における英国からの肉骨粉の輸出情報、EUステータス 評価案のきびしい結論から、わが国におけるBSE発生の可能性は否定でき ないと考えた。そこで、5月、わが国におけるBSEの発生または非発生状 況を確実に把握するため、と畜場の牛で、24ヶ月令以上の運動障害、知覚 障害、反射又は意識障害等の神経症状が疑われる牛と羊を対象としたアクテ ィブ・サーベイランスを開始した。これは帯広畜産大学におけるウエスタン ・ブロット法を用いた異常プリオンタンパク質の検出によるものである。

 しかし、千葉県のBSEの発生において、サーベイランスが行われていた にもかかわらず、と畜場で敗血症と診断された牛についてBSEが疑われな かったのは、厚生労働省のサーベイランスでは起立不能は「運動障害等の神 経症状が疑われるもの」とみなされなかったためである。一方、農林水産省 は起立不能を神経症状を示す牛として幅広に解釈してよいとの通知を出して いた。両省の間でサーベイランス基準に相違のある点は認識されていなかっ た。

・1万頭の牛についてのBSE検査の計画立案

 厚生労働省は、上述のサーベイランスを継続的に実施するため、年間に神 経症状を示す牛約1万頭を対象としたサーベイランス実施経費を平成14年 度概算要求に盛り込み8月末に財務省に正式に要求していた。また、ヨーロ ッパにおけるBSE発生状況を考慮して、健康牛についても、BSEサーベ イランス事業実施のため、平成14年度厚生科学研究費の要求作業を行って いた。これらが公表されたのは千葉県でのBSE牛発見の直前であった。

・BSE発生を予測した危機管理マニュアル

 農林水産省は1996年4月に政令の施行通知により、また2001年4 月にサーベイランス要領を作成し、BSE又はその疑いのある牛を発見した 際の連絡体制及び当該牛の処分の方法について都道府県に対して通知してい たが、緊急対応マニュアルは作成していなかった。厚生労働省でも1996 年4月にBSE又はその疑いのある牛を発見した際の連絡体制及び当該牛の 処分の方法について都道府県等に対して通知しており、また「健康危機管、 理基本方針」を保持していたが、現場でのBSEに対する具体的な緊急対応 マニュアルは作成していなかった。

 こうした中で、8月6日に1頭目のBSE患牛が、農林水産省のサーベイ ランスの対象となって発見された。厚生労働省でもサーベイランスが行われ ていたが、両省のサーベイランス要領の中には、緊急事態に対する相互の連 携措置の記述がなかったため、8〜9月段階での大きな混乱を招いたといえ る。

・2001年6月11日〜14日のWHO/FAO/OIE専門家会議報告への 対応

 農林水産省では国際調整課課長補佐が出席した。帰国後、畜産部職員を対 象とした説明会が行われたが、本会議でのとりまとめの内容は、農林水産省 としてはほとんど対応済みであると判断した。しかし、報告書に述べられて いる肉骨粉の使用禁止についての勧告はきわめて厳しい表現であったが、(1) 2001年1月から顕微鏡を用いた検査、(2)同年3月から省令改正に向けた 作業の開始、(3)2001年6月に混入防止ガイドラインの制定等を実施して いたため、すでに対応済みと判断した。BSEのグローバル・リスクも強調 されていて、国際的に危機感の高まりが報告書からうかがえるが、その点に ついての国民への情報提供はなされなかった。なお会議の概要については 6月14日付けでプレスリリースがWHOのホームページに掲載されてい る。

 なお、厚生労働省には10月22日に報告書が送られてきた。この時期は BSE発生後であり、すでに発生国としてのと畜場での体制等が整備されて いたので、この警告書を踏まえた新たな対応は必要とされなかった。

(2) 2001年8月6日、後にBSE 第1号となった牛がと畜場に搬入され て、その「確定診断」が英国のレファレンス研究所で出される9月21日ま で、46日の日時を要したことの農林水産省の評価

 8月6日にと畜場から送られてきた脳のサンプルは、8月15日に(独)動 物衛生研究所でのプリオニクス試験で陰性と判定された。一方、8月24日に 千葉県の家畜保健衛生所における病理検査で空胞が発見された。

 動物衛生研究所でのプリオニクス試験まで9日間、千葉県の家畜保健 衛生所での試験まで2週間以上の間隔があった。BSEが疑われる牛であれば 直ちに試験が行われるはずとの農林水産省衛生課長の回答から推測すると、こ のサンプルについてBSEの可能性は想定していなかったものと考えられる。

 空胞発見から動物衛生研究所での再度の試験成績が発表されるまでも 時間がかかっている。千葉県から農林水産省衛生課へ空胞が見いだされた旨の 連絡は24日ファクス及び電話で行われた。衛生課と動物衛生研究所の 間の連絡は担当者の不在などで連絡が手間取り、再検査が決定されたのは30 日であり、動物衛生研究所に検査用サンプルが届いたのは9月6日であ、 った。と畜場で牛が解体されてから30日後になる。

 一方、厚生労働省にBSE牛発見のニュースがもたらされたのは9月10日 15時30分頃に農林水産省衛生課から厚生労働省監視安全課に連絡が行わ れ、また、16時過ぎに農林水産省国際衛生対策室長が監視安全課を訪れて説 明した際である。それまで情報はまったく提供されていなかった。

 緊急事態における連絡体制はまったく作られていなかった。これもBSE発 生時の緊急マニュアルが欠けていたためである。

(3)2001年9月10日にBSEを疑う牛の確認について公表した際、質疑 応答で、当該牛は焼却処分されたはずと回答したが、14日になって、レン ダリングに回っていた旨の訂正を公表し、対応に混乱がみられたことについ ての評価

 8月6日、千葉県のと畜場で乳牛が敗血症として診断されて全廃棄処分にさ れた。一方、この牛は搬入された際に起立不能であったために、家畜保健衛生 所に頭部だけが提供され、残りはレンダリングにまわされた。

 両省の間で、異なる基準によるサーベイランスが実施されていたにもかかわ 、。らずその相違がもたらす事態についての認識は両省ともに持っていなかった そのため、9月10日の記者の質問に対して「食肉に供していないということ を聞いておりますので、焼却したはずでございます」との回答がなされたが、 実際には肉骨粉になっていた。これが当初の社会混乱の原因になった。

 なお、9月12日に千葉県及び厚生労働省から農林水産省に当該牛はレンダ リング処理されていたとの連絡があったが、確認作業や内部連絡の遅れにより その旨が公表されたのは9月14日であった。

(4)2001年9月10日に動物衛生研究所において確定診断がなされ たにもかかわらず疑似患畜として、英国のレファレンス研究所に検体を送付 し「確定診断」を求めたことについての農林水産省の評価、

 9月11日に農林水産省においてBSE検討会が開かれ、BSEが疑われ る牛が感染牛であるか最終的判断をしていただきたい旨の挨拶が畜産部長か らなされた。

 議事録を見ると疑似患畜という意見は専門家からはまったく出ていない。 診断は確定したものとみなしている。しかも、最終的判断についての文言は 見あたらない。しかしながら、わが国での初めての事例であり、諸外国でも 初発例については国際機関のレファレンス研究所で確認を行うことが通例で あることから、英国に検査データ等を送付し、確認を依頼することとし、確 認がなされるまでは行政判断として疑似患畜とされたものである。

 動物衛生研究所は1997年からプリオン病に関する総合的研究班 を結成し、その間にプリオン病の診断についても国際的なレベルの技術に達 している。しかも英国で確定診断に用いられた免疫組織化学検査の手法は もとは厚生省の遅発性ウイルス感染調査研究班の研究で開発されたものであ る動物衛生研究所からは英国獣医学研究所に留学した者もおり、B SEについての経験も備えている。

 BSE検討会としては、確定診断が行われたものを再確認するための送付 と考えていた。

 それを疑似患畜としたのは家畜伝染病予防法に沿ったものと説明されてい る。

 この対応の結果、2例目からの検査も英国に送るのか、日本の検査技術の レベルは大丈夫かという心配の声が国民の中で聞かれた。

 しかも「第1例目の診断が英国で確認されたので、2頭目以降について、 は(日本での)確定診断が可能であると考えている」という見解が農林水産 省から出されているが、これは行政が研究者の技術レベルを評価したもので あり、きわめて失礼な表現といわざるを得ない。

(5)BSE 患畜発生後に行った農場段階の「目視調査、及びその結果の公表」 についての農林水産省の評価

・緊急全戸調査

 BSEに関する牛の緊急全戸全頭調査が、約460万頭について9月12 日から家畜防疫員約5800名が参加して、9月30日まで実施された。そ の結果、臨床的にBSEの疑いのある牛は見いだされなかった。この調査は 行政として、まず最初に行うべきものであるが、当時まだ対策マニュアルは 作成されていなかったため、急遽、立案されたものとみなせる。

・飼料製造工場への緊急立ち入り検査

 9月12日には牛用配合飼料の製造工場に対する緊急立ち入り検査を開始 し、9月21日に終えた。これは交差汚染防止のためのガイドラインの遵守 状況を帳簿等による原料使用状況、製造工程の実地調査等及び顕微鏡検査に より確認するものであった。この顕微鏡による検査は英国等を除き現在も各 国で採用されている方法であるが微量な混入については検出感度に限界があ る。

(6) わが国におけるBSE発生後に取られた一連の措置に関する評価

・農場段階での監視体制(農林水産省)

 9月19日、厚生労働省のスクリーニング検査体制が整うまで、30ヶ月 令以上の牛の出荷繰り延べの指導が行われた。

 9月20日に農場におけるサーベイランスの強化について、中枢神経症状 の牛の検査と焼却する内容の通知が出された。これはすでに4月から開始さ れていたアクティブ・サーベイランスの延長とみなせる。

 農林水産省では、翌9月21日に疑似患畜と関係のある牛の追跡について BSE検討会で検討が行われ、10月17日の「第8回BSE検討会及び第 3回牛海綿状脳症防疫委員会合同会議」を経て、サーベイランス対象の定義 及び患畜が摘発された場合における疑似患畜の定義が定められた。

 これまでは、清浄性の確認を目的としたサーベイランスであったために、 患畜が見いだされた場合の省庁間の連携を含む対応は、この折、初めて検討 されたことになる。

・全頭検査体制の確立(厚生労働省)

 厚生労働省は、2001年9月27日、12ヶ月令以上の牛について、頭 蓋(舌、頬肉を除く)及び脊髄並びにすべての牛の回腸遠位部の除去と焼却 を都道府県に通知した。EUはと畜場で同様の特定危険部位対策に加えて3 0ヶ月令以上の牛について迅速BSE検査を実施している。農林水産省が9 月19日には30ヶ月令以上の牛の出荷繰り延べの指導を行っていたため、 この危険部位の排除の措置により、EUと同等の安全対策がこの時点で実施 されたことになる。

 10月3日にはBSEスクリーニング開始日を10月18日に決定し、検 査対象をすべての年令の牛に拡大した。

 10月2日より10日間にわたって117か所の各地域の食肉衛生検査所 職員に対してBSEスクリーニングの研修を行った。

 10月18日、すべての年令の牛について特定危険部位の除去とスクリー ニング実施による、いわゆる全頭検査が農林水産省との緊密な連携のもとに 開始された。これにより、国際的にもっともきびしい安全対策が実施される ことになり、と畜場から出る牛由来産物はすべて安全なもののみになったと みなせる。

 BSE発生のニュースを受けてから1ヶ月あまりという、きわめて短期間 で全国的な検査体制が作られたことは高く評価できる。

・研修中に起きた東京都での疑陽性騒ぎについて

 前述のBSEスクリーニング検査の技術研修中の10月11日、25検体 中の1検体で疑陽性の結果が得られた。この検体は前日に東京都中央卸売市 場から分与を受けたものであって、検体の延髄が採取された牛の特定ができ なかったために、東京都は出荷された肉と内臓の回収を行った。

 これは結局、ウエスタン・ブロットによる確認検査の結果、陰性と判断さ れたが、これが大きな社会混乱を引き起こした。

 エライザ法では一定の確率で疑陽性が出ること、この時点では前述のよう に30ヶ月令以上の牛の出荷繰り延べと危険部位の除去によりEU並の安全 対策になっていることの情報提供が十分なされていなかったことが混乱を招 いた理由と考えられる。

 また、検体が市場に出回る牛から採取されている以上、疑陽性となった際 の対応について、サンプルを採取した牛を特定し、かつ検査が終了するまで 当該解体された牛を保管するなど、あらかじめ何らかの措置がとられている べきであった。

・死亡牛の検査

 ヨーロッパでは死亡牛からBSEが見つかる事例が多い。これは、BSE 汚染の実態を把握し、汚染農場の特定、同居群における感染牛の摘発に重要 と考えられる。そのために死亡牛についての全頭検査の実施が必要と考えら れる。しかし、農家への補償を十分考慮するとともに、関連する施設整備を 含めた検査システムのあり方を十分検討した上で早急に実施するべきであ る。

・医薬品・医療用具、食品などへの対策(厚生労働省)

 厚生労働省は10月2日、2000年12月に実施されていた医薬品・医 療用具などに対する措置に、さらに日本及び発生リスク不明国を原産国とす る牛等由来原料について原則禁止という国際的にもっとも厳しい措置が追加 された。

 ついで10月5日、食品および加工食品について、牛由来原材料の点検、 特定危険部位の使用又は混入が認められた場合の由来原材料の変更、自主的 回収などを要請した。

 これらはすべて予防原則にしたがった妥当な措置とみなせる。

6 厚生労働省と農林水産省の連携について

(1)BSE の発生前における厚生労働省と農林水産省の連携に関する評価

 1997年に食品行政について農林水産省と厚生労働省の緊密な連携確保 が行政改革会議において指摘されていたが、現実には縦割りのままで、両者 間の連絡会議も形式的なものにとどまっていた。

 2000年における欧州でのBSE急増から厚生労働省側では日本での発 生リスクを想定した対策を実施しはじめていたが、農林水産省側は清浄性を 確認するという立場での対策であり、両省の危機意識に差が感じられる。し かし、このような重要な点について両省の間での意見交換はまったく行われ なかった。

(2)BSE の発生後における厚生労働省と農林水産省の連携に関する評価

 BSE発生後、初めて両省間に緊密な連携がもたれたとみなせる。サーベ イランスの方式では、農林水産省がプリオニクス試験、厚生労働省がエライ ザ法と異なっていたが、農林水産省のBSE検討会と厚生労働省の牛海綿状 脳症に関する研究班の合同会議で、エライザ法に統一された。

 10月18日に実施にこぎつけた全頭検査体制も両省の緊密な連携のもと に行われたものとみなせる。また、この際に両省の協議でBSE検査対応マ ニュアルが作成された。

7 わが国におけるプリオン病研究の蓄積と今回のBSE対策への貢献

 わが国におけるプリオン病研究の歴史は、プリオン病の名前が生まれる以前 の1976年厚生省の「スローウイルス感染と難病発症機序に関する研究班」 (1979年より「遅発性ウイルス感染調査研究班」に改称)に始まる。この 班の研究で開発された免疫組織化学検査法は現在、BSE、CJDなどプリオ ン病の確定診断法としてもっとも重要な手段となっている。

 とくに、今回の全頭検査体制の確立に貢献したのは、本研究班における帯広 畜産大学品川森一教授によるスクレイピーに関する研究の蓄積である。厚生省 の研究班ではヒトと動物の区別はせず、スクレイピーはCJDの重要なモデル とみなされていた。

 しかし、スクレイピー研究が可能になったのは、思いがけない幸運のたまも のである。品川教授は1970年代半ばに農林水産省にスクレイピー病原体の 輸入を申請していたが拒否されていた。しかし、カナダから輸入された羊の子 孫でスクレイピーが発生したことで研究を開始できたのである。

 一方農林水産省でもカナダからのスクレイピー感染羊が発見されたことで スクレイピーの研究が家畜衛生試験場で開始された。しかし、それは科学技術 庁・科学技術振興調整費と経常研究費による限られたものであって、農林水産 省としてスクレイピー研究の重要性について十分な認識は持っていなかった。

 当時、家畜衛生試験場に在籍していた農林水産省のBSE検討会座長の小野寺 節教授は境界領域テーマを対象とした科学技術庁・科学技術振興調整費により スクレイピーの研究を開始し、その研究蓄積が現在の農林水産省のBSE対策 に貢献している。


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

1 危機意識の欠如と危機管理体制の欠落

 日本はBSEが大量発生した英国から肉骨粉を輸入していなかったことなど から、行政も危機意識が欠如していた。これまでの農林水産省担当者でBSE の国内発生を懸念していた人は20%にすぎない。飼料、食料の輸入自由化が 進んだにもかかわらず、最悪のケースを想定して防疫体制を強化しておく危機 管理の考え方が欠落していたといわざるを得ない。

 とくに農林水産省が、1996年4月にWHOから肉骨粉禁止勧告を受けな がら課長通知による行政指導で済ませたことは、英国からの肉骨粉輸入を禁止 し、牛用飼料への肉骨粉使用がほとんどないと考えられていた事情を考慮して も、重大な失政といわざるを得ない。1990年に英国に調査団を派遣したも のの感染源となる可能性のある肉骨粉の処理基準強化にとどめたことも結果と して判断が甘かったといえよう。

 2001年にEUのステータス評価に対し、EUの評価基準がサーベイラン ス体制や発生状況を考慮していないこと、OIEの評価基準とかけ離れていた ことなどから評価の中断を要請したことも経緯はともかく政策判断の間違いだ った。

 危機意識の欠如は危機管理体制の欠落を招く農林水産省はBSE発生当時 本格的な危機対応マニュアルがなく、BSE発生時に対応が混乱した原因の一 つとなった。BSE清浄国とみなされる米国が1990年からサーベイランス を開始して発生に備え、1998年に農務省、昨年食品衛生医薬品庁が危機管 理マニュアルを作成したことは、危機意識の違いを示している。

 さらに、危機を予測し、発生を防ぐための措置を講じて危険のレベルを引き 下げておく予防原則の意識がほとんどなかった。風評被害を過剰に警戒してB SE対策の遅れを招いたという指摘もある。予防原則を徹底すると巨額のロス を伴う恐れがあることから、行政担当者が萎縮する傾向は避けられない。しか し、食の安全は国民の生命健康に関わる問題だけに、国民の理解を求めながら 果断に対策を講じなければ行政の不作為を問われかねない。

2 生産者優先・消費者保護軽視の行政

 先進国では食糧不足の時代が終わって需給関係が逆転し、国際的な市場競争 を勝ち抜くために経済効率を最優先する畜産の工業化が進んだ。畜産廃棄物を 飼料にリサイクルする肉骨粉は工業化の申し子だったが、飼料の安全性に対す る関係者の認識は甘かった。

 肉骨粉は第二次大戦後に欧米で広く使い始め各国に普及したが、自然の食物 連鎖を変えたためにBSEを招いたことは経済効率を最優先した近代畜産の陥 穽というべきかもしれない。

 一方、市場競争の激化に伴い、先進国の法制度や農業政策は生産者優先の産 業振興から次第に消費者優先に軸足を移すとともに、国民の生命と健康の保護 を最大の行政目的に据えている。ドイツが「連邦消費者保護・食料・農業省」 に、EUが「保健・消費者保護総局」に組織を再編したことは、消費者優先・ 健康保護重視の姿勢を明確に示している。

 ところが日本の法律、制度、政策、行政組織は、旧態依然たる食糧難時代の 生産者優先・消費者保護軽視の体質を色濃く残し、消費者保護を重視する農場 から食卓までのフードチェーン思考が欠如している。牛肉の消費が回復しない ことに対し、政治家や関係者が、不満に近い発言を繰り返したことも、生産者 優先の体質をうかがわせ、贔屓の引き倒しになりかねない。関係審議会も消費 者代表が少なく、国民の意思を反映しにくい。

 また、情報伝達の混乱に伴う風評被害を警戒して、遅滞なく情報を公開し透 明性を確保する努力が不充分なケースも見うけられる。BSEの検査結果のよ うに確認後の公表が原則であるが、情報の緊急性や信頼性に応じ未確認と断っ た上でも情報提供することが求められる。

3 政策決定過程の不透明な行政機構

 行政に求められる最も重要な役割の一つは、緊急事態における迅速かつ適切 な対応である。1996年にWHOの勧告にもかかわらず法律で肉骨粉を禁止 せずに行政指導で済ませた意思決定は、農林水産省のどの部署で、いかなる人 が、どんな協議を行って決定したのか。

 本調査検討委員会の質問にも役所側からの説明はほとんどなく、局議の記録 も存在しないとされ、きわめて不透明である。官僚機構の常として、重要な判 断は組織の連帯責任として決定される。枢要な担当者が事前に縦系列で協議し て実質的に決定し、その過程は記録にとどめないケースが多い。局議は周知徹 底と意思統一の場で、広く職員が参加して自由に論議することは少ないようで ある。

 政策の継続性を重視し、意思決定過程を明確にしないことにより、個人が責 任を問われることはほとんどない。幹部職員のポスト在任期間はおおむね二年 で、判断の難しい課題の多くは後任に引き継がれる。1997年の衆・参両院 による行政指導徹底の附帯決議があったものの、1997年に米国、オースト ラリアが肉骨粉を法律で禁止して以降、2000年までの間、農林水産省が何 ら対策を取らなかったことも、意思決定の先送りを繰り返していた証左と言え よう。

 さらに1996年の肉骨粉禁止問題では、行政指導の問題点が浮き彫りにな った。戦後の高度成長を支えた護送船団方式の時代には行政の幅広い調整が問 題を迅速かつ円滑に解決する有効な手段だったが、低成長時代に入り行政指導 の威令が薄れている中で、生産者、関連業界にとって短期的には不利益な指導 が現場まで浸透しなかったこともゆえなしとはしない。関係者の衝撃を和らげ る配慮がうかがえるものの、結果として推定5000頭以上に肉骨粉が給与さ れ、汚染源を拡大し消費者の信頼を損なう結果を招いた。

 政策のサーベイランス機能を中心的に担うのは政治である。農林水産省の政 策決定にあたり、最も大きな影響を与えているのが国会議員、とりわけ農林関 係議員であるのは故なしとしないが、全国の農村を地盤に選出された多くの議 員が巨大な支援団体にして強力な圧力団体を形成し、衰退する農業を補助金や 農産物輸入制限などを通じて支え、生産者優先の政策を求めてきたことは否め ない。そのような政と官の関係が政策決定の不透明性を助長し、十分にチェッ ク機能を果たせない原因となったものと考えられる。

 農林水産省は産業振興官庁として抜きがたい生産者偏重の体質を関係議員と 共有してきた。ただしBSE問題を契機として大臣をはじめ農林水産省内 そして一部の国会議員に改革を目指す動きが出てきたことは評価に値する。政 策判断の軸足を生産者からできるだけ消費者に移す考え方である。消費者の信 用を失えば生産者は生き残れないことが今回はからずも証明されたように、消 費者保護優先の政策展開は生産者を保護するためにも欠かせない必要条件であ り、先進国の常識である。

4 農林水産省と厚生労働省の連携不足

 BSE問題は役所間の縦割り行政と責任の所在についての問題点を鋭く提起 した。これまで生産段階は産業振興も規制も農林水産省、畜産・食品衛生は厚 生労働省と農林水産省が役割分担してきた。感染ルートの肉骨粉は生産段階で 、「、あり農林水産省の責任だが厚生労働大臣も公衆衛生の立場から意見を述べ 又は要請することができる」という規定(飼料安全法)があり、本来はチェッ クできる仕組みになっているため、両省の連携不足が指摘された。

 中央官庁における縦割り行政と付随する縄張り争いの弊害はつとに知られて いる。その結果、互いに棲み分けて相手の所管事項に口を差しはさまない“内 政不干渉”が慣例になり、チェック機能はほとんど働いていない。1996年 のWHO肉骨粉禁止勧告や、2001年のEUステータス評価の際、農林水産 省は厚生労働省との十分な協議を行わず、厚生労働省は明確に意見を言わなか った。両省間に食肉・食鳥処理問題調整協議会は設置されていたものの、重要 な政策決定に他の官庁が助言することは、争いの原因になるという認識が一般 的である。官庁同士の連携を図るには「意見を述べることができる」などと、 いう責任のない規定ではなく「協議する」「協議を受けた場合には意見を述 べる」と明確に位置付けなければ有効に機能するはずがない。

 問題の根源は生産段階における振興と規制の権限が農林水産省に集中してい るにもかかわらず有効なチェックシステムを構築していなかったことである。

 その結果、常に生産者の目先の利害を政策判断の基準にしてきた。BSE問題 は短絡的な生産者優先政策の論理的破綻を象徴するもので、チェック機能の不 在が事態の悪化を招いた。

5 専門家の意見を適切に反映しない行政

 日本の審議会や検討会は、行政から諮問、提示されたテーマを論議し、官僚 が書く文案に沿って答申、報告,意見具申するケースがほとんどである。一流 の科学者、各界の第一人者を揃えても、卓越した見識が生かされず、行政が政 策立案の客観性を装う隠れ蓑に使っているという批判が強かった。行政改革で 審議会を整理縮小し、行政が自らの責任で政策を決定するプロセスが主流とな っている。

 しかし、国民の生命に関わる食品安全問題は、正確なエビデンスと科学的な 知見に基づく迅速な判断が求められる。健康に対するリスク評価については、 専門家の意見が尊重されなければならない。ところが、1996年の肉骨粉問 題では、農業資材審議会安全性分科会家畜飼料検討委員会で二人の専門家が法 律で禁止するよう主張したが、農林水産省の方針を受けて先送りされた。

 関係する学会も政府に提言する意識と行動力が不足していた。独立性の高い EUの科学運営委員会との交流を活発にして科学的議論と連携を深めておく必 要もあった。

 基本的な問題点は、リスク分析の考え方が欠落していたことである。リスク を科学的に評価するリスクアセスメント、リスクとベネフィットや社会的な影 響等を比較考量しながら管理するリスクマネジメントが連携しなければ、食品 の安全性確保はおぼつかない。行政と科学の間の情報や意思疎通を円滑に行い 相互信頼を確立するリスクコミュニケーションも欠落していた。

6 情報公開の不徹底と消費者の理解不足

 マスコミの報道については、センセーショナルで集中豪雨的という批判があ る。たしかに興味本位で不正確な一部メデイアが存在するのは事実で、BSE 問題でも誤解を招く報道があった。正確で科学的で分かり易い解説記事の充実 が今後の課題といえよう。とくに日本のマスコミには食の安全についての専門 家がほとんどいない上、掲載の頻度も欧米に比べて少ない。BSE発生前の欧 米における対応の報道も不十分であった。

 行政の正確な情報開示と透明性の確保も不充分である。BSE発生の際に感 染牛の処理情報を誤って伝えたほか、過去の経緯や政策内容についても説明不 足である。情報提供技術の問題もある。全頭検査開始の大臣コメントが「安全 宣言」と報道され、第二例発生の際に不信が高まったことは、マスコミの伝え 方に課題を残したが、行政も国民にどう伝わるかについて注意を払う必要があ った。

 消費者の受け止め方にもやや過剰な反応がみられ、全頭検査開始後も牛肉離 れが続いている。しかし、安全と安心の間には大きな落差があり、消費の低迷 は行政不信に表示不信が重なった結果でもある。徹底した情報開示による透明 性確保以外に信頼回復の方法はない。

7 法律と制度の問題点および改革の必要性

食の安全を確保する法律は、厚生労働省所管の食品衛生法、と畜場法、農林 水産省所管の家畜伝染病予防法、飼料安全法などに分かれ、罰則はおおむね軽 い。食品衛生法は不衛生食品や疾病にかかった獣畜を販売した場合の最高刑が 懲役3年または20万円の罰金である。

 また、食品衛生法にも定めのある食品表示と関連する法制度として、農林水 産省所管の日本農林規格(JAS)法、公正取引委員会が担う不当景品・不当 表示防止法があるが、JAS法の罰則はさらに軽い。原産地表示を偽っても指 示に従えば責任を問われず、従わない場合でも段階を踏んで企業名公表、最高 50万円の罰金で済む。これでは犯罪を抑止する効果はなく、違反続発の誘因 になったとの指摘もある。

 消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律も欠け ている。国民の健康を最優先する行政組織も整備されていない。リスク分析を 導入するにも、科学的なリスク評価を担う組織が見当たらない。消費者保護に 責任を持てる組織も、情報公開や組織間のリスクコミュニケーションを進める 組織も欠落している。時代の変化に対応できる制度改革が緊急の課題である。


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


第3部今後の食品安全行政のあり方

 今日食をめぐる状況の変化はあらたな局面をもたらしている。BSE、O1 57をはじめとする新興・再興感染症、ダイオキシン、内分泌かく乱物質、遺 伝子組換え食品、大規模食中毒など、食品の安全性をめぐる新しい問題が、近 年、次々と発生している。これらの問題は経済の国際化が進展する中で、世界 同時的、多発的に発生していることも今日的な特徴である。こうした今日の食 品の安全性をめぐる深刻な問題は従来の食品の安全に関する認識では対応でき ない困難さを抱えている。微生物やプリオンのような新しいハザードに関するリ スク評価は、実験的にハザードの濃度・量を変化させて、それらに由来する健康 への悪影響を知ることができる農薬や食品添加物などの化学物質のリスク評価に 比べて、ずっと難しい。こうした今日の食品の安全性をめぐる深刻な問題から、 食品の安全を確保し、消費者の健康をいかに保護していくかは重要な課題になっ ている。

 沖縄サミット、ジェノバサミット等、近年の先進国首脳会議でも食品の安全 性の問題が国際的に共通した重要なテーマとして取り上げられてきた。

 今日、食品の安全性は「農場から食卓まで」のフードチェーンにおける一貫 したシステムによって確保されなければならないことが明らかにされてきてい る。

 また、コーデックス委員会は、今日的な食品の安全性確保のためのシステム として、「リスク分析」の手法の採用が各国で必要であることを提言している。

 しかし、日本では、今回のBSEの国内発生の経過の検証でも明らかになった ように、特に行政において今日的な食品の安全性確保の課題への認識が希薄で あり、有効な措置を採れなかった。その背景として食品の安全性確保のための 組織体制や法制度が不備であった等の問題も存在する。同時に、消費者の健康 保護を優先せず、生産の振興や保護に重きを置いた政策は、結果として生産者 や事業者への甚大な打撃となって返ってくることとなった。

 BSEに関する問題を調査検討してきた結果、問題は単にBSEへの対応に あっただけではなく、食品の安全行政全般に共通した問題であることが明白に なったのである。ここに、食品の安全性の確保に関する基本原則を確立し、食 品の安全性を確保するための法の制定と組織体制の整備、既存の関係法令の抜 本的な見直しを行い、リスク分析手法の採用を始めとした今日的な食品安全の ための社会システムを確立することが不可欠となっている。

1 食品の安全性の確保に関する基本原則の確立

(1) 消費者の健康保護の最優先

 食品の最終消費をするのは消費者である。消費者は安全な食品を十分な情 報を得た上で、選択できることを保証される権利をもっている。そのために は、消費者が意思決定に参加し、意見を表明し、情報を提供されなければな らない。食品の安全性の確保に関する基本原則として、消費者の健康保護が 最優先に掲げられ、このような消費者の安全な食品へのアクセスの権利が位 置づけられなければならない。

 こうした消費者の権利を保障するために、生産、加工、流通、販売を含む 、農場から食卓までのフードチェーンにおいて携わるすべての事業者は 食品の安全性の確保および正確な情報の提供に関する責務を有する。

 上記のフードチェーンにおいて、行政は一貫性かつ透明性をもつ管理体制 を確立する責務をもつ。

 このため、食品の安全性に係わる関係法において、その法目的に消費者の 健康保護を最優先し、消費者の安全な食品へのアクセスの権利を定めるとと もに、その目的を達成するための、予防原則に立った措置も含む行政及び事 業者等の責務を定めるなどの抜本的な改正・見直しが必要である。

( 2 ) リスク分析手法の導入

 科学技術の進展により様々な科学的知見が明らかになってくるにしたが い、食品の安全性は「シロ」か「クロ」かで論ずることが不可能となって、 きている。食品の安全には「絶対」はなく、リスクは「食品中のハザード、 が存在する結果として生ずる健康への悪影響の確率とその程度の関数であ る」とされるにいたっている。

 コーデックス委員会は、こうした今日の食品の安全性をめぐる考え方に基 づき、リスク分析の手法を各国が採用するべきだとしている。

 リスク分析とは、消費者の健康の保護を目的として、国民やある集団が危 害にさらされる可能性がある場合、事故の後始末ではなく、可能な範囲で事 故を未然に防ぎリスクを最小限にするためのシステムである。すでに、EU 及び加盟諸国においては、消費者の健康の保護を最優先し、食品安全の確保 のためのシステムとして、リスク分析を法に位置づけて導入している。 リスク分析は「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」 のつの要素からなっている。

 リスク分析の構成要素、リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーシ ョンを具体的に制度化する必要がある。また、全過程において透明性が確保 されると言う視点が重要である。

 リスク評価は利害関係から独立して客観的に行われる必要がある。リスク 評価は専門の科学者によっておこなわれる。

 リスク管理は、消費者をはじめとしたすべての関係者と協議しながら、消 費者の健康保護を第一の要素とし、その他有用性、社会的な影響等の要素を 総合的に考慮して、適切な政策・措置を決定・実施する過程として位置づけ られなければならない。リスク管理は透明性をもつと同時に、採用された政 策の結果は常にモニタリングされ再評価されなければならない。

 BSE問題とそれに引き続いて明らかになった虚偽表示問題は、食品の原 材料の追跡・検証が可能になるようなシステムを必要としている。トレーサ ビリティは最終商品から原材料へと追跡可能なシステムである。遺伝子組換 え食品においてもトレーサビリティが課題となっているが、今日、食品の安 全性の確保のためにトレーサビリティは、フードチェーン全体を通じた全て の食品に適用されるべきシステムである。また、リスク管理における重要な 手法として位置づけられなくてはならない。

 リスクコミュニケーションは、リスク分析の重要な要素として位置づけら れなければならい。リスクコミュニケーションはリスク評価、リスク管理の 普及、広報としてのみ行われるのではなく、リスク評価・リスク管理の過程 にも求められる。とりわけ行政は、消費者をリスク分析のパートナーとみな し、消費者とのリスクコミュニケーションを重視し、情報の公開と提供、参 加と対話を強めるべきである。リスクコミュニケーションは、リスク評価、 リスク管理の過程においても重視して位置づけられなければならない。

2 食品の安全性の確保に係る組織体制の基本的考え方

 食をめぐる今日的な状況に適切に対応していくためにリスク分析手法の導入 が、食品の安全性の確保に関わる組織体制のベースとなる。

( 1 ) リスク分析に関する基本指針の確立

 (1) 基本指針は、後述するリスク評価を実施する新しい行政機関において作 成する。また、利害関係者の意見を聞き合意の下で作成されなければなら ない。

 (2) 基本指針には、リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーションを 貫く基本方針を盛り込む。

 (3) 基本方針は、リスク分析の原則から導かれたもので、その実施のための 具体的方策等を掲げるものとする。

( 2 ) リスク分析をベースとした組織体制の整備

(1)リスク評価体制の確立

 リスク評価の実施は、一貫性、独立性の観点から関係省庁から独立した 行政機関で行うべきである。

 リスク評価は、緊急性の高いものから計画的に実施する。その優先順位 については、関係各大臣および消費者の意見を反映するものとするべきで ある。

 リスク評価の対象には、消費者の健康や安全性の視点から、家畜飼料や 動物用医薬品も含められなければならない。加えて、水、土壌、ダイオキ シン、内分泌かく乱物質家畜伝染病などもその対象とするべきである。

 リスク評価の対象については、消費者や市民団体など外部からの発議も 取り入れるべきである。

 リスク評価は、コーデックス委員会の定義に基づき、4段階(危害(ハ ザ−ド)確認、危害特性付け、暴露評価、リスク特性付け)においておこ なわれる。評価を行うのは、客観的な科学的評価を行い得る独立した専門 家・科学者である。

 専門家の編成や人数については、欧米の体制等を参考に、今日の食品安 全に係る広範な分野をカバーし得る十分なものとしなければならない。

 専門家、科学者の人選は、公正・中立な立場から客観的な科学的評価を 行い得る視点から、広く行われなければならない。その意味で、海外から の応募も含めた公募制も採用されるべきである。

 リスク評価を行う専門家・科学者(毒性学、獣医疫学、暴露評価等)の 絶対数が不足している。今後は、欧米の研究機関等への派遣研修、行政と 研究の連携強化等により、こうした人材を早急に育成確保し、ノウハウ・ 技術・経験の蓄積を図るべきである。

 また、国際機関で整備されているデータや欧米諸国のリスク評価結果を 積極的に活用するとともに、リスク評価に関し、関連国際機関との連携を 強化すべきである。

 「リスクの特性づけ」においては、特定の人口集団(乳児・高齢者・障 害を持つ人など抵抗力の弱い集団)に対するリスクの配慮が重視されなけ ればならない。

 リスク評価の対象の選定や優先順位等を定める年次計画の策定が必要で ある。その策定に当たっては、消費者も含めた利害関係者が参加して意見 交換・検証をすることが必要であり、特に消費者は然るべき位置をもって 参加が保障されなくてはならない。また、リスク評価を行う独立した行政 機関の年次事業計画や予算の決定の場に、消費者代表の参画を保障するこ とが必要である。

 リスク評価の結果は公開されるとともに一般の人にも容易に理解でき 利用されるようなものでなければならない。そのため、リスク評価を実施 する独立した行政機関に消費者・国民へのリスクコミュニケーションを行 う部署を設置することが必要である。

 食品のリスクに関する研究は、官民の研究機関においても強められるべ きであり、リスク評価を実施する行政機関と研究機関との情報交換・連携 が緊密になされなければならない。

 現在の日本の食品安全行政においては、リスク評価とリスク管理の両方 の機能が区別されず渾然一体となっており、その問題はBSEの国内発生 の経過の検証からも明らかである。

 こうした日本の現状を抜本的に改革することが必要である。EU及び仏 独などの国のこの間の食品安全行政組織の改革の共通点は、独立したリス ク評価機関を設置したということである。特に産業振興の役割を担う組織 からの分離・独立が不可欠である。

 リスク評価を行う行政機関はその独立性が保証されるべきである。また、 その機関はリスク分析に関する基本指針を策定し、客観的な科学評価を実 施することからみれば、総合科学技術会議のように常勤メンバーの中に科 学者のいる機関とすることが望ましいと考えられる。これらを踏まえて、 その組織のあり方について慎重に検討するべきである。

 リスク評価を実施する行政機関はリスク管理を行う行政機関に対して そのリスク評価の結果を通達し、リスク管理を行うよう勧告できるように するとともに、リスク管理を行う行政機関(関係各省)に対して資料の提 供をはじめとする協力を求めることができる。

 リスク評価を実施する行政機関とリスク管理を行う行政機関とは、相互 に必要な情報交換を行い得るようにし、そのための通常および緊急の際の 適切な協議を制度化すべきである。

(2) リスク管理体制の確立

 ア 食品行政の機能別分担の再検討と相互調整システムの確立

 基本指針に基づき、食品行政の機能別分担を再検討し、相互調整シス テムを確立する。リスク評価を行う行政機関と関係各省および各省間の 政策調整システムを制度化する。

 各省はリスク管理の実施に当たって、消費者その他の利害関係者の意 見を反映するものとする。

 食品の安全行政に係わっては、食中毒等の管理は医療も含んだ厚生労 働行政、農薬の認可は農林水産行政・環境行政であるが、食品中の残留 農薬の基準設定やモニタリングなどは厚生労働行政、動物用医薬品の使 用基準などは農林水産行政で、その食品中の残留基準の設定などは厚生 労働行政、ダイオキシンや内分泌かく乱物質等は環境行政・厚生労働行 政という形で行われている。

 例えば農林水産省は産業振興の役割を分担しており、その役割分担か ら農薬や飼料を所掌することには合理的な根拠があり「食品安全行政、 の一元化」との一律の考え方によってその所掌事務を他の組織に移しか えることには無理がある。

 したがって、リスク分析の原則に則り、独立したリスク評価機関の設 置によってリスク管理を担う行政との機能分担をはかることが合理的で あると考えられる。

 あわせて、農薬、動物用医薬品が認可等されるのと同時に食品中の残 留基準を設定すること、また、飼料添加物として指定されている抗菌剤 については、動物用医薬品の取扱と整合性を図る必要がある。また、食 品の安全に係わる個別の法律において、その法目的に「消費者保護」や 「安全性の確保」が規定されておらず、合わせて、そのための行政の責 務が定められずに多分に行政の裁量が認められている法制度のもとで は、今回のBSEの国内発生を許した教訓にも明らかなように、農林水 産省・厚生労働省相互の連携・牽制が働かないこととなる。従って、食 品の安全に係わる個別法において「消費者の保護」や「安全性の確保」 を明文化し、食品の安全に関する基本原則に従って制定される包括的な 食品の安全を確保する法に整合させて、改正する必要がある。

 イ リスク管理を分担する各省庁と「危機管理体制」の整備

 危機管理に際して、厚生労働省においては既に官房に健康危機管理官 を設置し、危機管理体制が整備されているが、他省庁においても、迅速 な警戒体制及び予防措置を行うために、リスク管理を分担する各省庁に 危機管理体制を整備することが必要である。

 危機管理には地方公共団体も国と密接な連携をとりながら、それぞれ の立場でこれを遂行し、協力するものとする。

 危機管理の必要性が生じた場合、日常的な管轄を越えて移動・調査・ 指揮・命令が機動的にでき、食品の安全の確保に迅速に対応できる、各 省庁横断的な行政組織を構築する。

(3) 「リスクコミュニケーション」の確立

 リスク分析手法において、リスクコミュニケーションは重要な役割を持 っており、その中において消費者の参加、消費者への情報公開・積極的な 情報の提供を位置づけることが重要である。消費者に対する積極的な情報 の提供は、消費者の参加を積極的に進める前提として必要である。また、 消費者に正しい情報量が少ないほど消費者のリスクの認知は大きくなるこ とは今回のBSE問題での教訓でもある。リスクコミュニケーションは一 方通行ではなく対話であり、キャッチボールである。その観点から、リス クコミュニケーションを総合的に推進する専門の機能・組織を確立する必 要がある。

 危害(ハザード)とリスク、リスクに関する因子およびリスクの認識に 関して、リスク評価実施者、リスク管理実施者、消費者、産業界、学会お よびその他の関係者の間で、情報の公開および意見の相互交換がおこなわ れることを制度化する必要がある。また、リスク評価、リスク管理の経過 を含め、リスク分析のプロセス全体を通じて情報の公開および意見の相互 交換がなされることを制度化する必要がある。

 リスク評価及びリスク管理にかかわる情報は「行政機関の保有する情、 報の公開に関する法律」第5条各号に規定された情報を除いて、消費者が 自由にアクセスすることを可能とし積極的に一般に公開されることが必要 である。

 リスク評価者とリスク管理者と消費者との対話を促進することが必要で あり、消費者を対象とした「公聴会」や「意見提出」の制度を設けること も必要である。公聴会については、行政側が積極的に開催するとともに、 消費者からも開催の請求ができるように制度化すべきである。

 リスク評価やリスク管理に関する情報公開・提供に当たっては、欧米の 例も参考に、登録した希望者に対して制度の変更に係わる情報を、その都 度、インターネットを通じて提供する手法等も導入すべきである。

 リスクコミュニケーションは、リスク評価を実施する機関並びにリスク管 理を分担する省庁の両方が、相互および他の利害関係者と行う。そのための 実施の機能・体制を整備するする必要がある。

 リスクコミュニケーションを総合的に分担する組織は、リスク評価を実 施する行政機関に置くことが適切である。

 また、リスクコミュニケーションが適切に機能するためには、情報が受 け手にとって分かりやすいことが必要である。そのため、海外の例も参考 に、一般の人向け、子供たち向けなど、受け手の特性にあわせた情報の提 供など工夫が必要である。このようなきめ細かな情報を提供していくため には、情報に関する専門部署と専門家がいなければならない。日本におい ては遅れている分野である。特に広報担当コミュニケーターの育成が急が れる課題である。

( 3 ) 行政機関の連携、政策調整のあり方

 リスク評価を実施する機関とリスク管理を実施する機関との間、ならびに リスク管理を実施する機関同士の間において十分に連絡を行いながら協力 し各々の機関の責任を果たせるようにしていくために行政機関の間で覚、、「 え書」を交換し、その内容を公表することによって、実際の協力が的確に働 くようにしていくことが必要である。

 リスク管理を実施する省庁相互の間でも、各省庁が所有しているデータ・ 情報について、必要なものは共有化をはかるとともに、一方からの要請によ り相手方からデータ・情報を提供する旨を盛り込むなどの制度が検討される べきである。

( 4 ) 国際的な情報収集能力の向上と国際機関・主要国との連絡・調整のあり方

 近年、食品の安全性に係わる状況は、貿易の自由化の進展により世界同時 多発的な様相を強めている。

 こうしたことから、食品の安全に係わる危害情報や新しい科学的知見や技 術などの迅速な情報入手をはかるため、国際機関・主要国などからの情報収 集体制の特段の強化が必要である。このため、海外情報収集と国内への情報 提供を一元的に担う機能を、リスク評価を実施する機関に配置することが必 要である。

 国際機関や主要国との連絡・調整の機能を強化することも必要である。現 在、各省庁が有している海外駐在体制や情報収集機能について、情報の一元 化や効率化の視点から有機的に行えるようにそのあり方を見直すことも必要 である。

 EUや国際機関など、海外の情報を一層積極的に国内に導入するために、 これらの国の行政機関や研究機関、また科学者・研究者との交流を積極的に 強めるべきである。

 収集された海外情報については、リスクコミュニケーションの強化の観点 から、広く一般にもアクセスできるようにしていくべきであり、海外情報の 翻訳・提供も強化されるべきである。

( 5 ) 重要な個別の課題

(1) BSE・変異型CJDに関する研究体制の整備

 BSEや変異型CJDについての発生のメカニズムは解明されておら ず、研究体制を整備・強化し、そのメカニズムの解明を急ぐべきである。

(2) 食品に関する表示制度の抜本的見直し

 食品の表示のあり方は、消費者にとって安全性の確保や品質の確認、選 択の保障という、消費者の権利に関わる問題である。

 この間の一連の偽装や虚偽表示の防止、および消費者の権利を最優先し て保障するために、現在の各種表示制度について一元的に検討し、そのあ り方を見直す必要がある。

 このため、消費者も参加する検討の場を設け、そのあり方を至急に検討 することが必要である。

(3) 家畜伝染病予防法への公衆衛生の視点の強化

 近年、家畜伝染病が人にも伝染する事例が増加していることから、必要 な家畜伝染病についてもリスク評価の対象とし、リスク管理を行う機関と の相互連携のなかで対応していくべきである。

(4) 食に関する教育いわゆる「食育」の必要性

 今日の食品の安全性をめぐる事態に照らし、学校教育における食品の安 全性や公衆衛生及びリスク分析などに係わる基礎的知識の習得・教育を強 化する必要がある。

 農業や食品産業など、フードチェーン全般にわたる基礎的な知識および 栄養や健康に関する教育も充実させる必要がある。

 食品に、ゼロ・リスクはあり得ないこと、情報をもとに一人一人が選択 していく能力を身に付けていくことの大切さの認識の普及が必要である。

(5) アジアにおけるBSE発生国としての国際貢献

 アジアにおける最初のBSE発生国として、その発生にいたった経過を 明らかにしアジアにおいて日本のような事態が発生しないように、日本に おけるBSEの教訓の情報の提供を行うべきである。そのためにも、日本 におけるBSE発生の原因究明を早期に行うことが必要である。

 とりわけ、BSEに関するリスクコミュニケーションの欠如が、生産・ 流通にも甚大な影響を及ぼす結果となることから、リスクコミュニケーシ ョンのあり方に関する教訓の情報提供も重要である。

3 新しい消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律 の制定ならびに新しい行政組織の構築

 1および2に掲げた事項を実現するためには、新しい法律の制定と行政組織 の構築が必要となる。

 政府は、以下の2点について、6ヶ月を目途に成案を得て、必要な措置を講 ずるべきである。

 その検討に当たっては、その経過を常に情報公開し透明性を保つとともに消 費者をはじめとして広く国民の意見を聞き、合意の下に成案を得るよう努めな ければならない。

 (1)食品の安全性の確保に関する基本原則、リスク分析の導入を重点と位置 付け、リスク分析の分担及び手続き、ならびに消費者の参加の保証を内容 とする「消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための 法」を制定し、食品衛生法、と畜場法、飼料安全法、家畜伝染予防法その 他の食品関連法を抜本的に見直す。

 (2)欧州各国の食品安全機関の再編成を参考にして、リスク評価機能を中心 とし、独立性・一貫性をもち、各省庁との調整機能をもつ新たな食品安全 行政機関を設置する。

 欧州各国における食品安全機関の再編成を参考とするに当たって、組織 ・機関をそのまま日本に導入することは危険である。欧州における状況を 精査し、日本における現状とを具体的に比較検討した上で、新しい行政組 織を構築していくべきである。


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


関連用語解説

【ア行】

○アタッシェ

大使館・領事館に派遣される専門職員

○EU科学運営委員会

EU科学運営委員会は、食品・獣医・医薬品等の科学技術に関する助言委員会の1つ。19 97年6月10日付け委員会決定に基づき設立

○(BSE検査としての)ウエスタン・ブロット法

脳(延髄)組織を破砕した乳剤中のタンパク質を大きさ・構造の違いにより電気的に分 離した上で、ウシのプリオンタンパク質に反応する抗体で染色し、異常プリオンタンパク 質の分布状況(バンド)を見て確認する手法

○エライザ法

抗原抗体反応の一種で、病原体の有無を抗体に付けた酵素を発色させて検出する方法

○FAO (FoodandAgricultureOrganizationoftheUnitedNations)

国連食糧農業機関。国連の専門機関の1つ。世界の食糧および農業問題の恒久的解決を 図ることを目的とする。

○OIE (OfficeInternationaldesEpizooties)

国際獣疫事務局。家畜の疾病等に関する唯一の国際機関

【カ行】

○行政改革会議

平成8 年に総理府に行政改革会議が設置。平成9年12月3日に省庁再編案を盛り込ん だ最終報告がだされた。 食品行政については、農林水産省は「食品行政において労働福祉省(厚生労働省)と、 の間の責任分担を明確化するとともに、緊密な連携を確保する」こととされた。

○行政指導

行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定 の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当 しないものをいう(行政手続法第2条第6号)。

○交差汚染(crosscontamination)

飼料の場合、飼料が当該用途で利用できない原材料や下処理をした材料等の汚染物質と 交わり混入すること。例えば、製造の過程で,肉骨粉を利用する豚、鶏用飼料の製造ライ ンと肉骨粉を利用しない牛用飼料の製造ラインの間で人や物の流れが交差することによっ て起こる。

○厚生労働大臣も公衆衛生の立場から「意見を述べ又は要請することができる」という 規定

飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(昭和28年法律第35号)第22条 「厚生労働大臣は公衆衛生の見地から必要があると認めるときは農林水産大臣に対し 第2条第3項の指定、第2条の2第1項の規定による基準若しくは規格の設定、改正若し くは廃止、第2条の6の規定による禁止若しくは第2条の7の規定による命令に関し意見 を述べ、又は当該禁止若しくは当該命令をすべきことを要請することができる」。

○コーデックス委員会

FAOとWHOが合同で1963年に設立した委員会(163ヵ国が加盟)国際的な 食品規格をつくり消費者の健康を守るとともに、食料品の貿易のうえで公正な取引をはか ることを目的とする。

【サ行】

○サーベイランス

疾病の発生状況やその推移などを継続的に監視し、疾病対策に必要な情報を得るととも に、結果を迅速かつ定期的に還元するもの。

○獣医疫学

動物群を対象に、家畜衛生上の事象及び異常の実態を宿主、病因、環境の3要因の関連 性から観察究明し、家畜の健康の増進や疾病の予防を図る等の学問

○食肉・食鳥処理問題調整協議会

食品行政に係る農林水産省と厚生労働省との間の政策調整に関して、中央省庁等改革の 方針を踏まえ、国及び県段階のそれぞれに食肉・食鳥処理問題調整協議会を創設し、と畜 及び食鳥処理に関する事項について、協議することとされた。

○スクレイピー

羊及び山羊の海綿状脳症

○総合科学技術会議

平成13年1月、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づき「重要政策に関、 する会議」の1つとして内閣府に設置。内閣総理大臣及び内閣を補佐する「知恵の場」と して、わが国全体の科学技術を俯瞰し、各省より一段高い立場から、総合的・基本的な科 学技術政策の企画立案及び総合調整を行うことを目的とする。

【タ行】

○WHO (WorldHealthOrganization)

世界保健機関。国連の専門機関の1つ。保健衛生向上のための国際協力が目的

○特定危険部位

OIEの基準によると、BSEに係る危険部位としては、脳、脊髄、眼、回腸遠位部等 が指定。わが国では、と畜・解体時にすべての年令の牛の頭部(舌、頬肉を除く)脊髄 及び回腸遠位部(盲腸の接続部分から2メートル以上)を特定危険部位として指定

○毒性学

生物等に毒性を及ぼす化学物質と生物等との相互作用を研究する学問

○と畜場

食肉に供する目的で、獣畜をと殺・解体する施設

○トレーサビリティ(追跡可能性)

家畜の飼育あるいは植物の栽培から流通、加工を経て消費者の口に入るまでのルートを たどることができるように、記録などを保持するシステムをつくること

【ナ行】

○肉骨粉

 と畜場で家畜を処理し食肉を生産する過程で発生する残さ等くず肉骨獣脂かす( 不可食部位)及び死亡獣畜を化製処理(レンダリング:加熱、蒸煮)し、油脂を分離した 後、乾燥させ粉末にしたもので、飼料、肥料及びペットフードの原料として利用される。

【ハ行】

○敗血症

細菌が血液中で増殖して起こる疾病

○暴露評価

人が農薬などをどれくらい摂取(暴露)するかを測定あるいは予測すること

○ハザード

食品安全にかかるハザードとは、健康に悪影響をもたらす可能性のある、食品に含まれ る生物学的、化学的及び物理学的な物質、あるいは食品のおかれた状態。

○反すう動物

牛、めん羊、鹿等

○BSE (Bovinespongiformencephalopathy)

牛海綿状脳症。1986年に英国で初めて報告された病気。BSEにかかった牛の脳の 神経細胞は空胞化し、脳の組織が海綿状(スポンジ状)となることから、牛海綿状脳症と 名付けられた。

○プリオニクス試験

ウエスタン・ブロット法の原理を利用し、迅速処理を目指しキット化したBSE 検査手 法

○変異型CJD (クロイツフェルト・ヤコブ病)

CJD は、成人、特に老年成人に発生する、進行性痴呆、運動失調を特徴とする神経性 疾患で、プリオンと呼ばれる病原体が原因であると考えられている。 これとは別に、従来のCJDとは異なる変異型CJD の発生が英国で1996年に見い だされた。英国政府の諮問機関によりBSEと人の変異型CJDの関連の可能性が発表さ れたが、その後、動物試験等においてBSEと人の変異型CJDの関係を示唆する報告が 出されている。

【マ行】

○(BSEにおける)免疫組織化学検査

脳(延髄)の病理組織切片をウシのプリオンタンパク質と反応する抗体により異常プリ オンタンパク質を検出する手法

【ラ行】

○リスク分析

食品安全性に係るリスク分析とは、国民がある食品を摂取することによって健康に悪影 響を及ぼす可能性がある場合、その状況をコントロールする過程をいう。可能な範囲で食 品事故を未然に防いだり、悪影響の起こる確率や程度を最小にすることなどを目的。 なお、リスク分析は、リスク評価、リスク管理及びリスクコミュニケーションの3 つで 構成される。

○リスク評価

食品中に含まれるハザード(例えば、微生物、化学物質、放射能)を摂取することによ って、どの位の確率でどの程度の健康への影響が起きるかを科学的に評価する過程

○リスク管理

すべての関係者と協議しながらリスク低減のための複数の政策・措置の選択肢を評価 し、適切な政策・措置を決定、実施する過程

○リスクコミュニケーション

リスク評価リスク管理の過程においてすべての関係者の間でリスクに関する情報、 意見などを相互に交換する過程

○レファレンス研究所

OIEのレファレンス研究所は、OIEにより指定され、動物の疾病診断、診断方法に 関する助言、診断に使用する標準株及び標準試薬の保存等を行う研究所。 なお、BSE のOIE レファレンス研究所として、英国獣医研究所(英国)、ベルン大 学(スイス)が指定

○レンダリング

畜産物廃棄物の利用法の1つで、と体から食用に供せない部分を加熱して脂肪を融出し 残さを粉末飼料や肥料に製品化する方式をいう。


 はじめに

 第1部BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証

 第2部BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点

 第3部今後の食品安全行政のあり方

 関連用語解説


http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/bse_tyosaiinkai.pdfより転載

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